消費税増税は延期ではなくきっばり断念すべき 
2016年11月9日 参議院本会議

山下よしき 日本共産党を代表して、関係大臣に質問します。

 地方自治体が住民福祉の増進を図るという本来の役割を果たすためには、地方税や地方交付税など必要な財源が保障されなければなりません。ところが、地方の財源不足が21年間も続いています。その原因はどこにあるでしょうか。まず、総務大臣に認識を伺います。

 元々、我が国では、国と地方を合わせた行政サービスの六割を地方自治体が担っているにもかかわらず、国、地方を合わせた税収の四割しか地方に配分されないというギャップがあります。その上に、この間の自民党政治が地方財政を悪化させる要因となったことを指摘しなければなりません。

 一つは、バブル経済崩壊後、政府が景気対策として地方自治体に単独で公共事業を増やすよう主導、誘導したことです。これにより、バブルが破綻したにもかかわらず、全国各地で大型公共事業が新たに着手され、結果、その多くが失敗し、多額の借金が地方に積み上がることになりました。

 もう一つは、消費税の増税が景気を冷え込ませ、地方財政にも大きな打撃となったことです。97年、消費税が5%へと増税されたとき地方消費税が創設されましたが、消費税増税による景気悪化によって他の税収が減少したために、都道府県、市町村の税収総額は逆にマイナスとなりました。一昨年の消費税8%への増税後も、地方消費税の恩恵のない市町村の税収総額はマイナスとなっています。

 さらに、小泉政権の三位一体改革によって、国から地方への税源移譲をはるかに上回る国庫補助負担金と地方交付税の削減が行われ、地方自治体の財政危機を一層深刻にしたことも重大です。

 このように、歴代自民党政権の政策が長年にわたって地方財政を悪化させてきた根本要因だという自覚と反省はありますか。高市総務大臣、そして、三位一体改革当時の総務大臣だった麻生財務大臣の答弁を求めます。

 法案は、消費税10%への増税を再延期するものですが、消費税増税が景気悪化と格差拡大を招き、地方財政をも悪化させた事実を直視するなら、増税は延期ではなくきっぱり断念すべきではありませんか。総務大臣、断念しないのなら、3年後、消費税を増税しても地方財政が悪化しない保証はどこにあるのですか、お答えください。

 歴代政権がもたらした自治体財政の悪化、自治体リストラの強要は、結局、住民へのしわ寄せとなって現れました。

 例えば保育の問題です。三位一体改革による地方交付税の削減は、自治体の保育予算縮減に直結し、都道府県が実施していた障害児保育を促進するための補助、あるいは公立保育所と同水準の保育を民間保育所でも維持するための補助などの廃止、見直しをもたらしました。さらに、公立保育所に対する国の運営費補助などが一般財源化されたことにより、全国で公立保育所の削減と保育士の非正規化が加速しました。

 国の政策が保育の量と質の低下をもたらし、今日の保育所不足を招く土台となったことをどう認識していますか。総務大臣と塩崎厚生労働大臣、それぞれに見解を求めます。
 歴代の自民党政権が地方財政を悪化させた上に、安倍政権によって地方自治体に新たな負担が押し付けられていることは看過できません。

 介護保険制度の見直しにより、要支援1、2の訪問介護、通所介護が保険給付から外され、市町村の事業に移管されることとなりました。しかし、多くの自治体が、住民ボランティアに頼ることへの戸惑い、報酬引下げによる事業者の相次ぐ撤退などの困難に直面し、要支援向けのサービスが提供できない心配が生まれています。

 政府は制度の持続可能性を高めるためと言いますが、これまで持続してきたサービスを断ち切っているのが実態ではありませんか。厚生労働大臣、こうした実態をどう把握し、どう対応するつもりですか。社会保障の給付削減、自治体への財源保障なき事業押し付けはやめるべきではありませんか。

 安倍政権が今年度から地方交付税制度に導入したトップランナー方式も大きな問題です。

 地方交付税制度は、本来、自治体が行政サービスを標準的に行う場合の経費を基準に、地方税などの収入で賄い切れない不足分について、どの自治体にも財源保障する制度です。ところが、トップランナー方式は、民間委託や民営化などでコストカットを進めた自治体の低い経費を基準に地方交付税が算定されるもので、地方交付税の削減につながります。

 来年度、図書館や博物館などで指定管理者制度を前提とした算定基準の引下げが検討されていますが、既に指定管理者制度を導入した施設では、子どもへの読み聞かせに熱心な館長の雇い止めや地域の図書館同士の連携の後退など様々な問題が起きています。

 総務大臣、地域の文化や住民サービスの後退を招き、地方交付税制度本来の趣旨に根本から反するトップランナー方式は抜本的に見直すべきではありませんか。そして、財源不足が続いたときは地方交付税の法定率を引き上げるとしている地方交付税法の原則に従って、今こそ法定率を引き上げるべきではありませんか。

 日本共産党は、大企業や富裕層に対する優遇税制を是正し、能力に応じて負担する公平公正な税制への改革で国、地方の財源を確保すること、そして自治体が住民福祉の増進という本来の役割を果たせるよう、地方交付税を拡充することを強く求めます。

 厳しい財政の下でも独自の努力を行っている自治体は少なくありません。

 例えば、東日本大震災の被災地では、多くの被災自治体が、被災住民の住宅再建支援や医療費の窓口負担免除など独自の支援を行ってきました。熊本地震や鳥取地震でも、一部損壊に対する独自の支援の具体化が始まっています。

 これらの支援は被災者を大きく励ましています。国は、こうした自治体の努力を積極的に支えるべきだと考えますが、総務大臣、いかがですか。

 子育て世代への支援を強める自治体も広がっています。子ども医療費の無料化を含む助成制度は、今や全国全ての都道府県、市町村で実施され、子どもの健やかな成長に大きな役割を果たしています。

 子育て世代の願いと自治体の努力に応え、子ども医療費助成制度を国の制度とすべきではありませんか。少なくとも、全自治体が実施している下では到底通用しない国庫の公平な配分などという理由で、実施自治体に対し国保の国庫負担金を減額するなどペナルティーを科すやり方は直ちにやめるべきではありませんか。厚生労働大臣、お答えください。

 今年は、憲法公布70年であるとともに、地方自治制度施行70年でもあります。その年に、度重なる選挙で示された沖縄県民の意思をじゅうりんし、辺野古、高江、伊江島で米軍基地の建設を強行するなど断じて許されません。地域の在り方は地域に住む住民の意思によって決める、真の地方自治の確立を求めて、質問を終わります。

関係大臣の答弁

高市早苗総務大臣 山下議員から私には、まず地方の財源不足の原因についてお尋ねがございました。

 地方財政においては、近年巨額の財源不足が続いている状況にあり、平成28年度においても、なお5・6兆円もの巨額の財源不足が生じています。この要因は、歳出面においては、人件費や投資的経費を始めとする経費全般の節減を行ってきているものの、社会保障関係費が増加していること、歳入面においては、アベノミクスの取組の下、税収が回復基調にあるものの、地方財政全体としては依然として歳入歳出にギャップが生じていることによるものと考えます。

 次に、地方財政の悪化の要因についてお尋ねがありました。

 まず、景気対策については、我が国では公経済における地方の役割が大きく、公共投資の多くは地方団体が実施主体であるため、国と地方が一体となって取り組んできたものです。

 次に、消費税については、5%、8%と税率改定を行ってきましたが、これらは社会保障の維持、充実などの観点から実施したものであり、地域間の偏在が小さく税収の安定性が高い地方税体系の構築や地方財政の安定化に寄与してまいりました。また、三位一体の改革については、地方から御要望がございました3円の税源移譲の実現による地方の自主財源の強化、補助金改革による地方の自由度の拡大により、地方分権改革の実現に向けた大きな前進があったと認識をしています。

 そして、現下の地方財政は、アベノミクスの取組の下、地方税収が回復基調にあることなどから、財源不足額が安倍政権発足前に比べて8・1兆円減少し、着実に財政健全化は進んでおります。

 今後とも、歳出歳入両面にわたって地方財政の健全化に取り組むとともに、地方団体が必要な行政サービスを提供しつつ安定的な財政運営ができるよう、一般財源総額の確保に努めてまいります。

 次に、消費税率の引上げと地方財政の悪化についてお尋ねがございました。

 消費税率の引上げは、安倍総理が先般答弁されていたとおり、世界に冠たる社会保障制度を次世代に引き渡す責任を果たすとともに、市場や国際社会からの国の信認を確保するために必要でございます。

 また、各都道府県の平成28年度当初予算において、平成24年度当初予算と比べ、全ての都道府県で法人関係税が増加するなど、アベノミクスの成果が地方にも徐々に波及してきている状況にございます。消費税率の引上げを確実に実施するためにも、地域に働く場と雇用を生み出すローカル・アベノミクスを一層推進することを通じて、地方経済の活性化と地方の財政構造の改善を図ってまいります。

 次に、公立保育所の運営費補助と施設整備補助の一般財源化についてお尋ねがありました。

 公立保育所に係る運営費及び施設整備費は、三位一体の改革による税源移譲に併せ一般財源化されていますが、一般財源化による影響が生じないよう適切に地方財政措置を講じております。その上で、保育の供給体制や保育士の処遇については、それぞれの地方団体において、地域の実情などを踏まえて適切に判断されているものと認識をしています。

 次に、トップランナー方式の導入についてお尋ねがありました。

 地方財政が依然として厳しい状況の中、行政サービスを引き続き効率的、効果的に提供する観点から、民間委託などの業務改革の推進に努めることは重要でございます。このような中で、地方交付税の算定においても、平成28年度からは既に多くの地方団体が業務改革に取り組んでいる16業務についてトップランナー方式を導入しました。導入を検討することとしている図書館管理や博物館管理などについては、今後、地方団体などからの意見も踏まえて適切に検討をしてまいります。

 次に、地方交付税の法定率についてお尋ねがありました。

 地方財政の健全な運営のためには、本来的には臨時財政対策債のような特例債による対応ではなく、法定率の引上げにより地方交付税を安定的に確保することが望ましい方向と考えています。平成29年度の地方交付税の概算要求においては、引き続き巨額の財源不足が生じ、地方交付税法第6条の三第2項の規定に該当することが見込まれるため、同項に基づく交付税率の引上げを事項要求いたしました。

 一方で、平成29年度においては、国、地方とも巨額の債務残高や財源不足を抱えていることなどから、法定率の更なる引上げは容易なものではないと考えておりますが、法定率の見直しなどによる交付税総額の安定的確保について粘り強く主張し、政府部内で十分に議論をしてまいります。

 次に、税制の在り方と地方交付税の拡充についてお尋ねがございました。

 税制については、グローバル化、少子高齢化などの経済社会構造の変化に対応して、国税、地方税を通じて各税目が果たすべき役割を見据えつつ、その在り方を検討するということが重要です。特に、地方税については、行政サービスの対価を広く公平に分かち合うという応益課税の考え方を重視しつつ、その充実確保を図ることが重要です。

 また、地方交付税制度は、地方税収に大きな地域間格差がある中で財源の均衡化を図るとともに、全国の地方団体において標準的な行政サービスを提供するために必要な財源を保障する大変重要なものです。

 今後とも、地方税の充実に努めるとともに、地方交付税の財源調整機能と財源保障機能が適切に発揮されるよう取り組んでまいります。

 最後に、被災自治体への財政支援についてお尋ねがありました。

 災害復旧を始めとする個々の事業の地方負担に対し適切に地方財政措置を講じることに加え、特別交付税により、被害状況を基に包括的な措置を講じております。さらに、災害に伴い国庫補助事業の創設や拡充が行われる場合には、それに対応する地方財政措置の検討を行ってまいります。これからも地方自治体の実情を丁寧にお伺いしながら、地方交付税や地方債による措置を講じ、その財政運営に支障が生じないように適切に対処してまいります。

麻生太郎財務大臣 地方財政の状況についてのお尋ねがあっております。

 歴代自民党政権においては地方に十分配慮してきており、例えば御指摘のありました三位一体改革におきましても、かねて地方から要望がありました税源移譲を達成し、分権改革を大きく前進させたと思っております。また、麻生内閣においてリーマン・ショックという危機がありましたけれども、地方交付税別枠加算1兆円だったかを通じまして地方の財政悪化を防いできたといったようなことも挙げられると存じます。

 また、足下の地方財政につきましては、アベノミクスの取組の下で、企業収益の伸びによります法人関係税の増加、また給与や配当の伸びによります個人住民税の増加などにより、安倍政権発足時の4年前に比べまして地方税収はトータル約5円増収するという見込みになっております。

 いずれにいたしましても、今後とも、地方団体が安定的に必要なサービスが実施できるよう、国、地方の財政健全化目標も踏まえつつ、必要な地方財政対策の策定に向けて検討してまいりたいと考えております。

塩崎恭久厚労大臣 山下芳生議員にお答えを申し上げます。

 公立保育園の保育の量と質についてお尋ねがございました。
 国においては、待機児童解消加速化プランに基づく保育の受皿拡大を進めており、各自治体において地域の実情に応じて取り組んでおります。その結果、平成29年度末までの5年間の保育の受皿拡大は、全体で約53万人分を見込んでおります。引き続き、保育士の処遇改善を進めるなど保育の質を確保し、各自治体の保育の受皿拡大の取組を強力に支援してまいります。

 なお、公立保育園の運営費と施設整備費については、一般財源化以降も適切に地方財政措置が講じられております。

 要支援者に対する訪問介護と通所介護の新しい事業への移行についてお尋ねがございました。

 平成26年の介護保険法改正では、要支援者に対する訪問介護等について、介護保険の対象外とするのではなく、引き続き介護保険の地域支援事業の対象として、市町村が必要なサービスを地域の実情に応じて効果的かつ効率的に提供できるよう仕組みを見直しました。新しい仕組みでは、既存の介護サービス事業者に加えて、NPO等の多様な主体による柔軟な取組を提供できるよう見直していますが、費用については介護保険財源を用いて行い、国も引き続き、改正前と同様に負担をしております。

 新しい事業は、来年4月の全市町村での実施に向けて準備を進めているところですが、昨年4月に事業を開始した市町村の状況を確認したところ、全体の事業所数は、事業開始後、訪問サービスと通所サービスのいずれも増加をしていることなどを把握をいたしました。事業の実施状況については、今後も引き続き把握をし、適切に対応をしてまいります。

 自治体が実施をしている子供の医療費助成制度と国民健康保険の国庫負担減額についてのお尋ねがございました。

 子供の医療の確保は重要な課題であると認識をしております。子供の医療費助成に係る国民健康保険の減額調整措置については、本年6月2日に閣議決定されたニッポン一億総活躍プランに記載されたとおり、子どもの医療制度の在り方等に関する検討会の取りまとめを踏まえ、見直しを含め検討をし、年末までに結論を得ることとしております

 また、子供の医療費については、国として、就学前の子供の医療費の自己負担を3割から2割に軽減をしており、これに加えて、自治体独自の助成制度により自己負担の更なる軽減が図られています。このような子供の医療費助成制度を全て国の制度として運用することは、厳しい財政状況等を勘案すると現時点では課題が多く、慎重な検討が必要と考えております。

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日本共産党参議院議員。香川県善通寺市出身。県立善通寺第一高校、鳥取大学農学部農業工学科卒業。市民生協職員、民主青年同盟北河内地区委員長・大阪府副委員長。95年大阪府選挙区から参議院議員初当選。13年参議院議員選挙で比例区に立候補3期目当選。14年1月より党書記局長。2016年4月より党副委員長に就任。2019年7月参議院議員4期目に。参議院環境委員会に所属。日本共産党副委員長・筆頭(2020年1月から)、党参議院議員団長。