高齢者、障がい者、どうやって津波から逃げる手だてを取るか、これが一番の課題 
【議事録】 2013年6月12日 参議院災害対策特別委員会

山下よしき 日本共産党の山下芳生です。
 先日、南海トラフ巨大地震津波で大きな被害が予想される和歌山県の津波対策について、和歌山県和歌山市、海南市に調査に行ってまいりました。特に感じたのは、避難訓練、防災訓練の重要性の再認識です。例えば、海南市長さんは、市民の20%が訓練に参加している、東日本大震災後、関心の高さが違うとおっしゃっていました。
 いろいろ聞いて、私が感じた避難訓練には二つぐらい教訓があるなと思っております。第一は、住民の皆さんの逃げるという意識が高まるということです。和歌山市の担当者の方は、南海トラフ巨大地震津波の予測が発表された後、津波高の数字が独り歩きをして、もうどうしようもないと考えている高齢者の方がいると。そういう方に防災講座なんかで家族や孫が探しに来るよと言いながら、まず逃げてもらうということを徹底しているんだとおっしゃっていました。それから、これは和歌山じゃないですけれども、NHKのニュースで報道されていました高知の場合も、もう30メートルを超える津波が短時間で来ることについてもう諦めている高齢者がいるのに対して、避難訓練を子供さんと一緒に手をつないで山に上がるという経験をする中で、やっぱり逃げよう、生きようという気持ちが高齢者の中に湧いてきたということもありました。やはり、この訓練を通じて逃げる意識が高まるというのが第一。
 第二に、逃げる上での課題や障害が分かり、対策が進むということも感じました。海南市の場合は、割と平野部がそれなりの広さなので、逃げるよりも近くの高い建物に駆け上がる方が早いんじゃないかと。そうやって見ると、国家公務員の宿舎が幾つかあって、その屋上に避難してもらうことを市長を先頭に決めたと。そのために関係官庁と交渉もして、常に屋上への非常階段の入口を開放してもらうようにしたということも聞きました。
 それから、和歌山市の北部、本脇地区という海辺の地域では、避難訓練をする中で、車椅子を押して高台に行くのは無理だ、もうリヤカーの方がいい、そのためには道が狭過ぎる、地震でブロック塀が倒れてきたら大変だということも分かって、そういう問題の改良に着手しようとしているということでした。
 したがって、本当に避難訓練、防災訓練というのはいろんな効能があると思いますが、大臣の防災訓練、避難訓練についての重要性の認識、伺いたいと思います。

古屋圭司内閣府特命担当大臣(防災) 委員御指摘のように、やっぱり住民の皆さんが適切な避難行動を取ってもらうためには、単なる知識を身に付けるということだけではなくて、実際に行動して、移ってみるとかの体験的訓練、これを1回ではなく、やっぱり重ねてやっていくって極めて大切ですね。
 今回の法改正では、第7条に、住民の責務として防災訓練への自発的参加を努力義務として規定をさせていただいておりまして、また平成25年度の総合防災訓練大綱では、地方公共団体における防災訓練として、まず住民が防災を考え、具体的な行動を取る機会の提供、二つ目、地域住民等の連帯による自主的な防災訓練の普及促進、三番目、災害時要援護者の避難支援訓練、こういったものを位置付けをさせていただいておりまして、今後とも地域における避難訓練の、効果的な防災訓練の実施、こういったものについて周知を徹底してまいりたいと思いますし、そういった対応を促進をしてまいりたいというふうに思います。

山下よしき 和歌山の聞き取りでも、高齢者、障害者の存在を事前に把握することとともに、どうやってそういう方々の逃げる手だてを取るか、これが一番の課題となっていました。
 今回の改正案では、こうした災害時に避難する際手助けが要る避難行動要支援者の名簿作成やその活用、個人情報の取扱いなどの規定が設けられております。これをきっかけに、各自治体で、災害時の要援護者の避難支援をどうするか、計画の策定、マンパワーの確保に取り組むことになりますが、そこで、まず東日本大震災では被災者全体の死亡率と比べて高齢者や障害者の亡くなった比率が高いと言われておりますけれども、数字を御報告いただけますでしょうか。

西村康稔内閣府副大臣 総務省消防庁が公表しております平成25年3月26日現在の報告によりましたら、東日本大震災で亡くなられた方の総数は1万8千人にも上るというふうにされております。改めてお悔やみ申し上げたいと思いますが、この亡くなられた方のうち、65歳以上の高齢者の死者数が約6割を占めておりまして、さらに御指摘がありました障害者、障害をお持ちの方の死亡率は被災住民全体の死亡率の約2倍というふうになっているところでございます。

山下よしき 今ありましたように、65歳以上の死亡が全体の六割、障害者の死亡率は全体の約2倍ということです。大臣、この数字をどう受け止めて、どう対応されるでしょうか。

古屋大臣 今委員おっしゃるとおり、65歳以上の方がこういう数字、今副大臣からも答弁があったとおり、やはりそこの背景には、亡くなられた方々におかれては必要な情報がまず届かなかったということがありますね。それから、避難すべきかどうかを判断することができなかった。あるいは、必要な避難支援を受けられなかった。寝たきりの状態や老老介護により、自力や介護者だけでは避難することができなかった。あるいは、もう避難すること自体を諦めてしまったという事例が少なからずあったんでしょう。行政として、こういった面は反省をしていかないといけないというふうに思います。避難行動要支援者の支援に取り組んでいく必要があると改めて認識をしております。
 そういった視点から、今回の改正における災害対策基本法への避難行動要支援者名簿の作成等の位置付けを行いました。そして、それを踏まえて、災害時要援護者の避難支援ガイドラインの見直しを進めることといたしておりまして、今回の東日本大震災で明らかとなった様々な課題を教訓に、全力でそういったものが起きないような取組をしっかりしてまいりたいというふうに思います。

山下よしき 要援護者の皆さんを支援するためには、私、地域力が必要だと思うんですね。要援護者の方を迅速に避難していただくためには、手助けする方が必ず必要です。比較的若くて元気な方がやはり地域の中にたくさんいることがその地域力の一つの要だと思うんですが、行政のマンパワーはもちろんです。それから、介護福祉事業者のパワーも要るでしょう。しかし、それだけではやっぱり足らないです。
 例えば、その地域にある職場の労働者、あるいは農業従事者、特に後継者、そういう比較的若い力が地域の中にあるというのが、いざというときの要援護者の避難の支援に大きな力を発揮していただけるんじゃないかと思うんですが、ただやはり、もう皆さん御存じのとおり、地域を歩きますと、日常的にそういう方々が存在できているのかという点では非常に心配です。雇用の場が地域からはだんだんだんだん少なくなっております。農業で食べていけないということで、後継青年も少ない状況も生まれております。ですから、地域の中に日常的に支援する側の方々が存在していただく上でも、何といいますか、地域力の確保、これ大事だと思うんですが、大臣の認識伺いたいと思います。

古屋大臣 お答えいたします。
 要支援者名簿に記載し又は記録した情報は、本人の同意を得て必要な限度であらかじめ市町村から避難支援等関係者に提供することとしていますけれども、避難行動要支援者が確実に避難できる体制の確保を進めるためには、平時から地域づくり、人材育成等に幅広く取り組んでいくこと、行政だとか福祉の事業者だけではなくて、やはり農業とか漁業に従事する方々とか企業の従事者、こういったより多くの支援者を確保していくということは極めて重要です。委員のおっしゃるとおりだと思います。
 このため、国としても、災害時要援護者の避難支援ガイドラインを見直しまして、ふだんから住民同士が顔の見える関係を構築することを促進をして、支援者を拡大するために、まず地域づくり組織だとか福祉団体、市民団体等と要支援者が連携をした防災訓練を行っていくということ、それから地域づくり担当部局とも連携をして、防災行事に限らない様々な地域行事への参加の呼びかけであるとか、要支援者に対する声掛けあるいは見守り活動等を通じて人と人とのつながり、これを深めていくこと、そして自主防災組織、自治会等に対して、要支援者と接するに当たって留意すべきことなどの研修を行うこと、こういったことを盛り込みまして、その対策を強化をしてまいりたいというふうに思います。

山下よしき 繰り返しになりますが、その対策をやる上でも、マンパワーといいますか、元気な比較的若い方がいないと駄目です。その点では、僕はすごく痛感するんですけど、今大企業が地域の工場を勝手に閉鎖して海外に出ていっちゃうということだとか、TPPだってこれ農業に対しては非常に大きな打撃を与えますから、こういうことは地域の防災力を確保する上でもよく考えてやる必要がある、止めなければならないと、こう感じております。
 もう一つ、要援護者の方々を安全に避難していただく上で、例えば津波てんでんこという言い伝えや言葉があるとおり、津波においてはまずそれぞれが逃げることが基本だと言われております。これと要援護者の避難支援とをどう両立させるのか、大変これ重たい課題だと思います。大臣が先ほどから答弁されている中身は、恐らくこの災害時要援護者の避難支援に関する検討会の報告書の中に出てくる内容だと思いますが、この冒頭に、助けようとして自分も津波にさらわれたという事例が幾つも出ております。これ、どう考えたらいいのか。
 私は、私なりに考えることを少しまず述べて大臣の見解を伺いたいんですが、やはり科学的な予測に基づいた計画が大事だと思います。この地域は津波が何分後に、あるいは何十分後に到達するのか。あらかじめしっかりとそのことを想定した上で、その間にどんな対策ができるのか、それを取るのにどういう協力体制が必要なのか。で、実際にそれができるか訓練でやってみる。その上で、どうしても無理な場合は、もうそういう要援護者の方々を安全な場所に移り住んでいただくということも含めて対策を取る必要があると思いますが、いずれにしても住民が主人公で、日常から、常日ごろからそういうことを考えておくことが大事だと思うんですが、非常に重い課題も含まれると思いますが、大臣、いかがでしょうか。

古屋大臣 避難行動要支援者に対する支援については、やはり避難支援者の関係者の協力というのがこれは不可欠でして、ちなみに今度の東日本大震災でも、消防団員とか消防団の死者・行方不明者、実際それ援護に当たった方ですよね、281名に上りました。避難支援に当たった方も多数犠牲になられているわけでありまして、実際に避難支援に当たられる方々の安全確保というのも一方では重要ですよね。
 今回の法改正については、災害応急対策に従事する者への安全確保への配慮規定は設けさせていただきました。また、国として、先ほどのガイドラインを見直して、事前に避難行動要支援者と支援者の間でしっかりと打合せを行う、支援者本人等の安全を守ることを大前提として、地域で避難支援の撤退ルール、これについて定めておく等々を盛り込みまして、避難行動要支援者の円滑な避難支援と支援者の安全確保、この両立、これをしっかり図っていかないといけないわけで、そういう視点に立って取り組んでいきたいというふうに思っております。

山下よしき 撤退ルールという言葉がありました。ここに載っているんですけれども、それ読んで、これ本当にこれでいいかなと思ったのは、支援者は全力で助けようとするが、助けられない可能性もあることを理解してもらうことが望ましいと。これは非常に残酷というか、しかし、助ける側まで一緒に流されたのでは元も子もないと。
 やっぱり、これは地域の中に助ける側の人数を増やすことだと、解決の方法としてはですね。そうじゃないと、もう助けられないかもしれませんよという通告をしなければならないということになりますので、やはりここは、これはもう行政だけでは駄目ですけれども、さっき言ったいろんな地域の力をしっかり確保できるような総合的な対策が必要であります。
 もう時間が参りましたので、最後に、障害者団体の当事者の声をしっかりその計画を作成する段階から取り入れていただきたい。そして、障害者の中でも助かった人もおられますから、その教訓もまとめて生かしていただきたいということを要望して、終わります。

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日本共産党参議院議員。香川県善通寺市出身。県立善通寺第一高校、鳥取大学農学部農業工学科卒業。市民生協職員、民主青年同盟北河内地区委員長・大阪府副委員長。95年大阪府選挙区から参議院議員初当選。13年参議院議員選挙で比例区に立候補3期目当選。14年1月より党書記局長。2016年4月より党副委員長に就任。2019年7月参議院議員4期目に。参議院環境委員会に所属。日本共産党副委員長・筆頭(2020年1月から)、党参議院議員団長。