深刻な人権侵害 日米間で指紋情報をオンライン自動照会 
【議事録】参議院内閣委員会質疑

○山下よしき 日本共産党の山下芳生です。
 本法案は、日米間の条約に基づいて、指紋情報のオンラインによる自動照会を行う仕組みを導入するものであります。指紋情報という極めて重要な個人情報の取扱いに係る本法案については、日弁連などから、国民の人権、プライバシーの保護の観点から様々な懸念が表明されております。
 通告した質問に入る前に、一つだけ確認しておきたいんですが、この指紋情報のオンラインによる自動照会を行う仕組みとはどういうものか、簡単に、イメージが湧くように御説明いただけますでしょうか。

○河野章外務大臣官房参事官 お答え申し上げます。
 この協定におきましては、重大な犯罪、この協定上定義された重大な犯罪について具体的なその疑いというのがある人につきまして、その捜査の過程におきまして指紋というのがあった場合に、例えばアメリカで指紋があった、これについて、まず第一段階として、日本側にオンラインでその指紋を送って、それに適合する指紋というものが日本の持っているデータベースの中にあるかないかということを自動で答えると、これがオンラインによる照会でございます。その後に人定などの二次照会がございますけど、オンラインという意味ではそこのところでございます。

○山下よしき 要するに、第一次照会として、日米間において指紋情報が登録されているデータベースに、相手国の同意なく自動で指紋情報を照会できる制度を新たに創設するということでありまして、私は、これは指紋情報のデータベースが日米間で共有化されるに等しいというふうに思います。
 そこで、まず今回の措置の必要性について質問をします。
 我が国には、多国間、二国間で犯罪捜査の共助、犯罪捜査を共に助けることを進める必要から、既に国際捜査共助条約、さらに日米刑事共助条約などが締結されており、それに基づく国際捜査共助法が定められております。これらの条約、法律によって、既に日米間で指紋情報を含む情報の提供要請と情報提供が行われていますが、平成24年度の実績は日米それぞれ何件になっているか、お答えください。

○栗生俊一警察庁刑事局長 お答えいたします。
 平成24年中の数字でございますが、日米刑事共助条約に基づき我が国警察から米国に捜査共助を要請した件数は5件でございます。また、平成24年中にインターポールルートで我が国警察から米国に捜査協力を要請した件数は57件、一方で、米国から我が国警察に捜査協力が要請された件数は858件でございます。

○上冨敏伸法務大臣官房審議官 平成24年に米国から日米刑事共助条約に基づく共助要請を受けた件数は6件でございます。また、法務大臣を中央当局といたしまして米国に共助要請を行った件数は4件でございます。

○山下よしき 今、それぞれ件数をお答えいただきましたが、これは指紋情報を含む全体の情報ですが、今回の新たな法律の対象となる指紋情報の要請、提供の実績は何件になるでしょうか。

○栗生局長 お答えします。
 平成24年中に日米刑事共助条約に基づき我が国警察から中央当局ルートで指紋情報を米国に提供し、米国に照合を要請したものはございません。一方で、平成24年中にインターポールルートで指紋情報を我が国警察から米国に提供し、米国に照合を要請した件数は6件、一方で、米国から同じルートで指紋情報が我が国警察に提供され、我が国警察に照合を要請された件数は1件でございます。

○上冨敏法務大臣官房審議官 当局におきましては、要請内容ごとの統計を作成しておりませんので、その点は明らかに、申し訳ありませんが、できません。

○山下よしき いずれにしても、年に数件以下、非常に少ない件数なんですね。
 大臣に伺いますが、このような状況、ほとんど年に数件あるいはなしということですが、そういう状況の下で、新たに日米オンラインの指紋情報システムを立ち上げる必要があるのかどうか、これ、ないんじゃありませんか。

○古屋圭司国家公安委員長 このPCSC協定の目指すところは、日米間の査証免除制度の下で安全で国際的な渡航を一層容易にすると、一方では、両国民の安全強化を図る、テロ等の重大な犯罪に関わる情報を交換する枠組みを設定するものでございます。したがって、この協定の締結は、日米間の査証免除制度を維持するという観点からも極めて重要でございます。
 重大な犯罪の防止及び捜査については、指紋情報を介して日米間で迅速に情報交換をするものという点で有意義なものであるというふうに思っております。特に、2020年のオリパラがございますので、国際的に非常に注目を集める行事でもございますので、やっぱりテロ組織等の標的となる可能性は否定できません。その意味からも、円滑かつ安全な開会を確保するために、こういった協定の実施が必要であるというふうに考えております。

○山下よしき 安全のためだ、そして迅速化のためだということですが、私もそれを否定するわけではありません。
 ただ、これ指紋情報という重要な個人情報が今度のシステムで国境を越えて共有化される、国外に出ていくことになる。それによって何が起きるのかということでありますが、衆議院の審議でも明らかになりました、また今日も何人かの方がお触れになりましたが、第一次の指紋の自動照会の対象となるのは警察庁に保管されている全ての被疑者指紋、1040人分あるというふうに聞いておりますけれども、しかもこの中には、無罪判決が確定した者、嫌疑なし、嫌疑不十分で不起訴になった者のデータも含まれていると承知しておりますが、間違いありませんね。

○栗生局長 米国から特定の者が識別されている場合の第一次照会を受けたときでございますけれども、これは三百万人でございます。
 それで、お尋ねの点でございますけれども、これは一次照会を受けましたときに一千四十万人分の指紋に照合されるということでありますけれども、この中には、お尋ねの起訴猶予以外の理由による不起訴処分を受けた者や無罪判決確定者なども含んでおるところでございます。

○山下よしき 一千四十万人の中には無罪判決が確定した人、不起訴となった人が含まれるということですが、これ非常に重大な人権侵害だと私は思うんですよね。
 一旦被疑者として、あるいはまた、任意であっても本人の同意があるとして採取された指紋、個人情報は、これ本人が死亡するまで延々と警察庁に蓄積、保管され、本人の知らないところで利用されていく。その利用が、しかも本人にも確認ができないという状況に長く置かれるわけであります。
 そうなりますと、日本国内だけでもそういう状態がずっと続いているというのは問題であるにもかかわらず、この法案によって、今度は無罪判決が確定した人あるいは嫌疑不十分で不起訴になった人の指紋情報が国境を越えて共有されることになる。人権侵害の深刻度が格段に増すと言わなければなりません。
 古屋大臣、これはゆゆしき事態だと思いませんか。

○古屋委員長 我が国においてはそういう形を取っておりますが、一方で、今委員御指摘があったような、米国が特定の者を識別をして照会してきた場合には、そもそも無罪判決確定者等の指紋情報はその対象ではないということでありまして、また、米国が特定の者を識別しないで照会してきた場合には、無罪判決者等の指紋も第一次照会の照合対象には含まれていますけれども、その後の第二次照会において、対象者の人定事項等の個人情報を提供するについては慎重な判断を要するものというふうに考えています。
 この協定とは別の問題でございますけれども、我が国では、都道府県において、刑事訴訟法の規定に基づき被疑者の人定を確認するため指紋を採取し、保管しています。その結果、無罪判決が確定した者の指紋も捜査の記録として保存するということになりますが、無罪判決が確定したということだけで直ちに指紋の採取自体が違法になるということでもございませんので、このような指紋を引き続き保管することに法律的な問題はないというふうに認識しております。

○山下よしき 問題ないということなんですけれども、私はそれは世界の流れには逆行していると言わざるを得ません。
 諸外国の事例、少し調べてみました。ちょっと紹介します。
 イギリスでは、指紋の取扱いは、2001年、刑事司法及び警察法で原則無期限で保管されることになっていたんですが、2008年に欧州人権裁判所によって欧州人権条約第8条、プライバシーの保護違反の判決が出されたことを受けて、2012年、自由保護法が成立しております。そこでは、軽犯罪については、被逮捕者の不起訴処分又は被告人の無罪判決があったときは採取した指紋の記録を廃棄する、それから、重大犯罪の被告で有罪判決を受けなかった者の記録の保管期間は3年以内とするということになっております。
 それから、ニュージーランドでは、2008年、警察法で無罪が確定した者の指紋等を削除することを定めておりますし、シンガポール、アイルランドなども無罪となった者の指紋は廃棄、破棄することが法律で定められております。
 それから、アメリカも、メリーランド州では刑事訴訟法で、起訴されないで解放された場合は自動的に記録が消えることや、裁判で無罪になった場合には記録削除を申し出る必要があるなどが定められております。
 ドイツでも、刑事訴訟法によって削除について規定が定められておりまして、刑事手続のために保存した個人データは手続の終了時には削除しなければならず、今後の手続のために保存した場合は必要か否かを検証して、不要とされれば削除しなければならないとされております。
 フランスも、大統領、大臣の定める命令で書面による申立てができることになっており、無罪判決の人の指紋情報が削除された事例が存在をしております。
 このように、各国とも法律や法令で、個人情報である指紋情報の管理とともに削除、抹消などについて定めております。これが世界の流れなんですね。ところが、我が国では、さっき言ったように、一旦被疑者として、あるいは任意であっても本人が同意したことだとして採取された指紋、個人情報は、本人が死亡するまで延々と保管、蓄積される。本人が知らないところでそれが利用されていく。
 ですから、古屋大臣、これは日本の人権保護が世界の流れに比べて大変遅れているということだと思いますが、そういう世界の流れに対する日本の現状の私は遅れだと思いますが、大臣の認識、いかがでしょうか。

○古屋委員長 今委員御指摘ございましたけれども、世界を見渡しますと、欧州の一部に無罪又は不起訴になった者の指紋情報の保管について法律で保管期間を定めるという国もありますね。一方では、そういう規定がない国もありますね。イタリアもそうです。アメリカも一部の州はありますけれども、そうでないところもありますので。
 ですから、いずれの国の指紋情報の保管とか管理の在り方が、どれがいいのかということを評価する、一律的に評価するということは非常に私は困難だというふうに考えておりますし、一方、我が国のこの指紋制度というのはもう100年、明治時代に導入されて以来の歴史の積み重ねがありまして、今、先ほども答弁をさせていただいたように、法律にもそういうふうに、法令の対応はもちろんのこと、実務の積み重ねの上に成り立っているものであるんだと、こういうふうに私としては認識をいたしております。

○山下よしき そういうふうな、無罪あるいは不起訴になった人の指紋情報を削除する規定がある国もあればない国もあると、どちらが正しいか分からないということなんですけれども、そういう御答弁自身が、私は、大臣の人権保護の感覚の遅れを残念ながら物語っていると言わざるを得ません。
 そこで、これがそのまま今度の協定と法律が施行されたらどうなるかということなんですが、別の角度から聞いてみたいと思いますが、日米の今回の協定第8条5項の(1)は、提供された追加情報、指紋情報の照会の後の追加情報は、当初の要請目的以外の目的のためにも利用することができるというふうにしてあります。
 利用可能な目的は三つ明記されておりまして、一つは重大な犯罪の捜査、二つ目に自国の公共の安全に対する重大な脅威の防止、三つ目に出入国管理に関連する目的であります。それぞれそう判断するのは当該国の当局でありますので、これはかなり広い範囲で当初の目的以外でこの追加情報が利用される可能性があるということです。さらに、同条同項(2)では、この三つ以外の目的のために情報を利用するための規定も定められております。事前の同意を得るための書面による要請があれば、そういうことが可能だということが規定されております。
 したがって、さっき紹介した三つについては、事前の同意を得なくても、これは同意なしでそういう点での利用ができるということで、これは当初の重大犯罪の捜査あるいは予防という目的をかなり大きく外れた目的のためにも個人の情報が安易に利用できることになっているんじゃないか、そう懸念いたしますが、これは大臣か外務省か、御答弁いただけますか。

○河野参事官 お答え申し上げます。
 ただいま委員から御指摘ありました協定第8条5の規定でございますけれども、今御指摘のありましたとおり、この協定に基づいて、当初、犯罪捜査の目的のために必要とした情報について、この協定5の(1)(a)、(b)、(c)に掲げる、先ほどおっしゃいました重大な犯罪の捜査、自国の公共の安全に対する重大な脅威の防止、出入国管理に関連する目的と、その三つのためには使えるというふうになってございます。
 これは、ちょっと分かりやすくするために、少しどういったことが考えられるかということを申し上げたいんですけれども、まず重大な犯罪の捜査というふうに書いてありますところですけれども、例えばという言い方をさせていただきますと、米国の捜査当局がある重大な犯罪、例えば文書偽造でもいいんですけれども、そういったことで逮捕した被疑者を取り調べている際に、他の重大な犯罪、麻薬取引でも何でもいいんですけれども、そういったものへの関与が発覚したと。そういった場合、この当該被疑者については、当初の捜査の目的のために日本についての人定の照会等が来ていて、それに対する答えも出ていて、アメリカ側がもうそれについて既に入手しているというようなことが考えられます。そういった場合に、これは別件だから改めて自動照会やその同意の要請をするということは、これは必ずしも合理的ではないだろうと。
 したがいまして、重大な犯罪の捜査に該当する限りにおいて、当初の要請とは異なる目的であってもその情報を利用できるというふうに規定している次第でございます。
 二つ目の、自国の公共の安全に対する重大な脅威の防止につきましても、例えば、米国の捜査当局が爆発物の不正取引についての捜査をしていました。ただ、それを調べている過程において、その被疑者というのがその爆発物を使ってテロを実行しようとしているというのが分かったと。そうした場合、公共の安全に対する重大な脅威ということになると思いますけれども、こういった場合に、当初の事案について被疑者の人定などがもう分かっているというときに改めて自動照会あるいはその同意の要請というのを新たな案件としてやるということは、特にそれが公共への重大な脅威というふうな一刻を争うような脅威であるような場合には対応への遅れを招くというようなことがあり得るので、そういったことはその手間を含めて適当ではないだろうと、そのような意味でその当初の要請とは異なる目的であっても情報を利用できると、そのようなこととしている次第でございます。

○山下よしき 今の話聞きますと、いかにもそれは合理的なように聞こえますが、しかし、その目的の一つはそうであって、かなりこれ恣意的に解釈することだって可能だし、それを歯止めを掛ける仕組みがしっかりあるのかという点では非常に心配される面があります。
 それから、協定第8条第7項は、提供された指紋情報等は同意なしに第三国、国際機関、民間団体、個人に開示してはならないとしているんですが、同じ8条7項の後段で、それぞれの国の国内法で開示義務がある場合は開示できることとしております。
 国内の法律があるときには同意がなくても第三者に開示、提供できるということですか。

○河野参事官 今御指摘は第8条7でございますが、御指摘のとおり、我が国から米国に提供した情報、指紋情報や追加的な情報等は、我が国の書面による事前の同意がない限り第三者に開示することはできません。ただし、提供された情報を開示する義務を自国の法令に基づいて負う場合には例外とされている、おっしゃるとおりでございます。

○山下よしき できるということなんですね。
 ですから、国外で目的外で利用されたり第三者に開示される場合があるということです。そうなると、個人情報が海外で広く流通する、個人情報が拡散していく、これ、本人はもとより、日本政府としてもそういう事態をコントロールできないという事態が起こり得るわけですね。二重三重に人権が侵害されるんじゃないかと思います。
 いずれにせよ、アメリカ国内、第三国まで個人情報、指紋情報が提供される可能性があるというのは大変大きな人権問題だと思いますが、そこで、大臣、もう1回戻りますけれども、そういう扱われ方をする指紋情報等に今のままでは無罪確定の人、あるいは嫌疑なし、嫌疑不十分で不起訴になった人の情報まで入ってしまうと、そういう扱いがされちゃうということです。これはあってはならないことだと思うんですが、大臣に聞く前に、警察庁が管理している指紋情報の中で、無罪判決が確定した人、嫌疑なし、嫌疑不十分で不起訴になった人の数、それぞれ何人でしょうか。

○栗生局長 お答えいたします。
 無罪判決確定者は約千人でございます。また、起訴猶予以外の不起訴処分を受けた方は約十一万人でございます。

○山下よしき それ以外にも、先ほど公明党さんの答弁にいろいろありましたね。
 だから、それだけの方々の情報が国外に流出、流出というか流れて、かなり第三者にも行く可能性を政府としてコントロールできないということであれば、古屋大臣、少なくともこの方たちの、不起訴処分になった方あるいは無罪判決が確定した方などの指紋情報は警察庁のデータベースから削除すべきではありませんか。

○古屋委員長 先ほども私答弁させていただきましたように、この無罪判決が確定したというだけで指紋の採取自体が違法になるものではありません。したがって、指紋を引き続き保管することに法的な問題はない、こういうふうに認識をいたしております。

○山下よしき その結果、海外でそういう方々の情報が扱われるということについて、大臣、何らかの対応を検討しなくてもいいというお考えですか。

○古屋委員長 現状は今私が申し上げたとおりでございまして、法律上問題はないというふうに認識をいたしております。

○山下よしき 日弁連からは、今指摘した何点かも含めて、幾つかの人権上の懸念が表明されております。このままこれを執行しますと大変な人権侵害が起こりかねない、そのことを強く指摘して、危惧して、質問を終わります。