労働者保護のルールが骨抜きにされる危険性—戦略特区法案 
【議事録】 2013年12月6日 参議院内閣委員会

山下よしき 日本共産党の山下芳生です。
 ちょっと通告とは順番が違うかもしれませんが、質問をさせていただきます。
 まず、この戦略特区法案では、特区会議の下に雇用相談センターなどを置いて、雇用のガイドラインを作成するなどとしております。
 私は、この法律を潜脱するような、脱法を促すようなガイドラインであっては絶対ならないと、こう思っております。いかに労働関係法制が分かりにくい面があるからといって、それを余計なガイドライン作って労働者に不利なように働くことをしてしまってはならない。行政はあくまで労働者保護の立場に立つべきであって、この分野に特区諮問会議の民間有識者の口を挟ませるべきではないと、私はこう考えております。
 この点はもう意見だけで終わっておきたいと思いますが、そこで、今本院にかかっております特定秘密法案についてもこれにかかわる問題が実は生じてくるんです。労働者の地位にとって重要な影響を与えると思われる適性評価の問題でありますが、まず、これは内閣審議官にも来ていただいておりますけれども、適性評価の対象となる労働者には、パートタイム労働者、契約社員、期間社員あるいは派遣労働者なども含まれるということでいいんでしょうか。

鈴木良之内閣情報調査室内閣審議官 お答えします。
 先生御指摘の従業者は、いずれも適性評価の対象となります。

山下よしき そういうことなんですね。企業の直接雇用されている労働者だけではなくて、派遣労働者も特定秘密を扱うことが起こり得る場合は適性評価の対象になっております。
 そこで質問しますが、派遣先でかかわっている業務が特定秘密を扱うこととなった場合に、その派遣労働者も適性評価の対象となるわけですが、その派遣労働者が適性評価を受けることを同意しなかったとき、また適性評価で適性だという評価がなされなかったとき、派遣契約は解除されることがあるんでしょうか。

岡田広内閣府副大臣 お答えいたします。
 派遣労働者を含め、契約業者の従業者が行政機関から特定秘密の提供を受けてこの取扱いの業務を行う場合には、特定秘密を提供する行政機関の長が実施する適性評価を受けなければならないということは、議員御承知のとおりだろうと思います。
 そして、適性評価を行った行政機関の長は、契約業者に対して適性評価の結果又は当該従業者が適性評価の実施に同意しなかった旨のみを通知し、また通知を受けた契約業者は派遣労働者の雇用主に対してこれらの事項を通知することとなっております。これら以外に契約業者や雇用主に通知される情報はありません。適性評価で調査された事項が派遣労働者の人事考課に影響することもありません。
 加えて、特定秘密保護法では、第十六条第二項において、通知された適性評価の結果又は適性評価の実施に同意しなかったことを特定秘密の保護以外の目的のために利用又は提供することを禁止しており、特定秘密の取扱いに関係しない人事考課に利用することはそもそもできないということになっております。
 以上です。

山下よしき じゃ、厚労省に確認しますけれども、適性評価に派遣労働者が同意しなかった、あるいは適性評価を受けたけれども適性だという評価がなされなかったことを理由にして派遣契約を解除することは違法だという理解でいいですか。

宮野甚一厚労省職業安定局次長 お答えをいたします。
 特定秘密を取り扱う業務への派遣の場合、特定秘密保護法の施行後に締結される派遣契約においては、派遣労働者が適性評価をクリアすることが業務遂行の前提になるものと考えております。そのため、派遣労働者が適性評価をクリアしなかった場合の対応については、派遣契約においてあらかじめ定められることになるというふうに考えております。
 したがって、派遣契約が中途解除された場合に、それが派遣先都合の解除であるかどうかということについては、当該派遣契約で定められた内容に従って判断されるものと考えております。

山下よしき 今おっしゃった派遣契約というのは、例えば防衛省と派遣先企業のことなのか、それとも派遣労働者と派遣元の契約のことをいっているのか、どちらですか。

宮野次長 派遣契約につきましては、これは派遣先と派遣元、それぞれの企業との間の契約でございます。

山下よしき それでは、今答弁にあった派遣先の都合による解約なのか、それとも派遣労働者の能力の問題なのか、それはどこで判断するんですか。

宮野次長 いずれにいたしましても、その点については、派遣契約においてどういった形で契約がされているのかということによるものというふうに考えております。

山下よしき 現在、派遣労働者が派遣先で労働している場合、その派遣先企業に対し特定秘密が提供され得る場合もあるわけです、これから。その場合に、現在派遣先で働いている派遣労働者に対して適性評価が行われることになります。
 その結果、不適格だというふうになった場合、先ほどの答弁では、その派遣労働者はその当該企業では労働することができなくなるという趣旨の答弁がありました。そうすると、雇用を失うということになるんじゃありませんか。

宮野次長 今委員御指摘がございましたように、特定秘密保護法の施行前に締結された派遣契約の場合は、派遣労働者が適性評価をクリアしなかったことを理由とした中途解除、これがあり得るわけですけれども、それは法律の規定により当該業務を遂行できなくなったことによるものであって、派遣先の責に帰すべき理由による解除とは認められないというふうに考えております。
 いずれにしても、その場合どうなるかということでございますが、派遣法においては、派遣契約の当事者は、派遣契約の解除に当たって派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項をあらかじめ定めるということとなっております。派遣契約が解除された場合には、この定めに従って適切に対応されるものというふうに考えております。

山下よしき 二点確認します。
 なぜ派遣先の責任ではないんですか。

宮野次長 繰り返しになりますが、法律の規定により業務を遂行できなかったということでございますので、これは派遣先の責に帰すべき理由にならないというものでございます。

山下よしき じゃ、労働者の責任ですか。

宮野次長 繰り返しになりますが、いずれにしても、これは派遣先の責に帰する事由ではないということだというふうに考えております。

山下よしき 質問に答えておりません。労働者の責任になるのかと聞いております。

宮野次長 これは、その事情によってどういうふうに判断されるのかというのは、個別の事情によって判断されることになるというふうに考えております。

山下よしき 派遣先企業は責任はないと今判断できるのに、なぜ労働者の責任ではないと言えないんですか。おかしいじゃないですか。これまでずっと働いていた労働者が、派遣先とその派遣先の契約先が行政庁あるいは防衛省になって、そこが特定秘密の提供を受ける、あるいはその業務を委託する、そういうことになっただけじゃないですか。何でそれが労働者の責任になる可能性があるんですか。ならないでしょう。

宮野次長 お答えをいたします。
 これは、派遣労働者が適性評価をクリアしなかったという理由について、これは恐らく様々な理由が考えられると思います。それによりまして具体的にどう判断されるかということになろうというふうに考えております。

山下よしき その派遣労働者が適性評価に合格しなかった、様々な理由と言いますが、労働者の責任だということになってしまうわけですよ、客観的には。そして、その派遣先で雇用契約が、雇用契約というか、そこで仕事をすることはできなくなる。その労働者の雇用の安定はどうなるんですか。

宮野次長 これも恐縮ですが、繰り返しになりますが、派遣法におきましては、これは派遣契約の解除に当たって派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項をあらかじめ定めるということになっております。それによりまして適切に対応していただくということになろうと思います。

山下よしき そんなことが実効性があるわけがないというのがこれまでの実際の結論じゃないですか。リーマン・ショックのときに派遣契約は打ち切られました。八割の労働者がそのまま解雇され、職も住まいも失ったんですよ。そんなもの紙に書いているからといって、派遣労働者が次の就職先、雇用、労働の場所が保障されるなんという担保は全くないですよ。
 派遣先企業の責任は免れるけれども、派遣労働者の雇用の安定は全く保障されないということにならざるを得ないということが確認されました。
 もう一つ聞きます。
 派遣先は、特定秘密にかかわる業務に就ける派遣労働者、つまり適性評価に合格をして特定秘密取扱者の資格を得た派遣労働者を具体的に要請することができるのか。派遣先が派遣労働者を特定する行為は派遣法違反となるのではないですか。

宮野次長 これは、派遣契約を結びまして、具体的にどの労働者を派遣するかという時点におきまして、派遣先におきましてこの適性検査を行うということになろうというふうに考えております。

山下よしき 今の答えは、確認しますけど、派遣先で適性評価を受けるんですか。

宮野次長 派遣先で、派遣先といいますか、適性評価を行う、この法律によりまして、特定秘密保護法によりまして適性検査を行う主体によって適性検査を行うということでございます。

山下よしき 派遣法では、派遣先は派遣労働者の特定は禁止されているんです、事前面接も禁止されているんです。派遣される前に派遣労働者が適性評価のために、これ、適性評価を行うのは関係省庁の長ですから、防衛省の場合は防衛相、これは防衛大臣ができるわけありませんから防衛省の職員が面談をすることになります。派遣法の事前面接違反になるんじゃないですか。

宮野次長 これは、特定秘密保護法におきましてこうした仕組みが定められておりますので、この適性検査につきましては労働者派遣法の違反になるものというふうには考えておりません。

山下よしき 重大な答弁ですよ。労働者の雇用の安定、それから労働者を物のように扱ってはならないという今の事前面接禁止をこの特定秘密保護法ができれば守らなくていいという、そういう答弁ですね、今のは。重大だ。もう一遍確認します。

宮野次長 派遣労働者、この特定業務の遂行に必要であるために、それぞれの労働者の個人を特定することはできませんけれども、能力がどうかということを要請すること自体は可能であるというふうに考えております。

山下よしき 要するに、実際は事前面接をやったのに等しい、そういう効果が生まれるんですよ。そうじゃないと、その派遣先、つまり防衛省の特定秘密を扱う仕事はできないわけですから。
 そうすると、これまで働いていた派遣先の労働者がその事前面接を理由にしてやっぱり契約解除ということ、あり得ますね。

宮野次長 これは先ほども御答弁したとおりでございますけれども、特定秘密保護法の施行前に締結された労働契約の場合について、この法律の施行後、法律の規定によって派遣契約が中途解除されるという可能性はあるというふうに考えております。

山下よしき 何遍聞いても可能性ありなんですが、もう一つ聞きます。
 適性調査をする場合、今の特定秘密保護法では、派遣労働者の同僚、上司への聞き取りということがやられることになります。この場合は、派遣先の同僚なのか、派遣元の同僚なのか、どちらになるんですか。

鈴木審議官 お答えします。
 両方含まれると考えています。

山下よしき かなり広く聞き取り調査が行われるということですが、その派遣先あるいは派遣元で聞き取り調査をするのは誰ですか。

鈴木審議官 お答えします。
 行政機関の長が指名した行政機関の職員が行います。

山下よしき 防衛省と契約している場合は防衛省の職員ということですか。

鈴木審議官 さようでございます。

山下よしき 派遣法二十四条には、個人情報保護法に基づいて、思想、信条、出身地、社会的身分の個人情報を収集してはならないと派遣法二十四条に明定しております。適性調査はこの点からも派遣法違反ということになるんじゃないですか。

宮野次長 この適性調査については、この今回の特定秘密の保護法案、保護法に基づいて行われるものであるというふうに認識をしております。

山下よしき では、派遣法二十四条をじゅうりんする特定秘密保護法案だけれども、厚生労働行政の担当者としては容認するということですか。

宮野次長 繰り返しの御答弁になりますけれども、この特定秘密の保護に関する法律に基づいて行われるものであるというふうに考えております。

山下よしき これ、もう本当にこの面からも派遣労働者は保護されないんですよ。非常に重要な、重大な内容が含まれている。この委員会の所管ではないですけど、こういうものはもっともっとこういう面からも慎重に検討がなされなければならないという感想を持ちました。
 別の質問に移ります。
 新藤大臣、伺います。
 新藤大臣の戦略特区コンセプトの素案段階の資料を見ますと、諮問会議などに関係大臣が正式メンバーとして入っていたということにこれなっているんですけれども、諮問会議にですね、関係大臣が。ところが、これが外されております。今度の法案では、諮問会議には関係大臣は入っておりません。何でこうなったんでしょうか。

新藤義孝国務大臣(国家戦略特区担当) コンセプトペーパーは案として作りました。その一体、今私見ておりませんが、関係大臣というのはどこまでを関係大臣と言うかということでございまして、この国家戦略特区にかかわる大臣を関係大臣と呼んでいるわけでありますから、それは、諮問会議には大臣というのは入っております。

山下よしき 済みません、もう一度。ちょっと聞き漏らしてしまいました、関係大臣は。

新藤大臣 特区諮問会議には、総理とそして関係大臣と民間の有識者で構成するのでありますから、大臣は入っております。

山下よしき 諮問会議ですよ。
 諮問会議には関係大臣は入っていないですよ。

新藤大臣 それは、戦略特区担当大臣も関係大臣ではないんですか。

山下よしき 戦略特区担当大臣はもう元々入っているんですよ。要するに、行政の規制を所管する大臣がそもそも新藤大臣のこの最初のコンセプトの素案段階には入っているんですよ、ここに。それが外されているんです。何でですかと。

新藤大臣 それは、外したのでなくて、必要に応じて参加できるようにいたします。しかし、この特区諮問会議をこれは簡潔に、そしてスピーディーに進めていくために、そういう工夫をしたということでございます。

山下よしき 外れた理由はいろいろあるかもしれませんが、一つの大きな要因に、私は、竹中平蔵さんが入れるべきじゃないという趣旨のことを発言されているんですよ。否定されていますけれども、客観的にはそういう事実がここにあるわけですね。
 外すどころか、特区諮問会議の下、関係大臣に対する措置要求ないし勧告などの制度を設けるんだと。要するに、意見を言うんじゃなくて、諮問会議で規制緩和せいと言ったらちゃんと従えと、そういう仕組みをつくるべきだというふうに竹中さんは言っているんですよ。それに負けちゃったんじゃないんですか。

新藤大臣 その方がいつどういう発言したか、私は承知をしておりませんけれども、私どもがこの問題を検討するときに、そういった意見は一度も検討の俎上にのせたことはございません。
 そして、今回の関係大臣は必要に応じというのは、先ほど申しましたように、スピーディーに、そしてシンプルな組織とすると。最終的には閣議決定を行います。そこで全大臣が参加をするわけであります。ですから、まずは、案を作るときには総理の強力なリーダーシップの下で関係者をできる限り絞り込んで決めていこう、しかし必要に応じての協議は行えます、また関係大臣も入っていただく場合もあります、そして最終的には全大臣が参加をする閣議においてこれを決定すると、こういう仕組みにしたわけでございます。

山下よしき ちゃんと四月十七日の竹中平蔵さんの、立地競争力の強化に向けて、アベノミクス戦略特区の推進というペーパーの中に今私が言った趣旨が入っているんですよ。新藤さんが知らなかったというのはそうかもしれませんけれども、だから大臣は知らなかったんでしょうけれども、こういうことがやられている。もういいです、これは時間ないですから。
 前から積み残している質問をしなければならないんで、そちらに移りたいと思いますが、もう一度厚生労働関係に戻りますけれども、この特区法の中にはわざわざ労働契約の規制緩和について触れた部分があります。有期労働契約の上限規制の問題ですが、厚生労働省に伺いますが、厚生労働省が所管する直接の法案以外にわざわざ労働契約の規制緩和について労政審で議論する、あるいは次期通常国会でなどと書き込まれたケースはありますか。

大西康之厚労省大臣官房審議官 委員御指摘のこの法案でございますけれども、十月十八日、委員御承知のとおり、日本経済再生本部の基本方針の中ででございますが、厚労大臣は検討に当たり労働政策審議会の意見を聴くとか、あるいは二十六年通常国会に必要な法律案を提出するという、そういう本部の決定に沿いまして法案を作るという、そういう作業をしたわけでございます。
 確かにこの法案、全体が別に労働関係ばかりではございませんが、この労働政策審議会の意見という部分につきましては、委員御指摘のとおり、有期雇用の特例という労働関係の事項についてこういったことを審議するというようなことが書かれたものという具合に承知しておるところでございます。

山下よしき いやいや、答えていないじゃないですか。こういうことをやった法案がほかにあるんですかと言っているんです。

大西審議官 労働関係が何も書いていない法案におきまして労働政策審議会の意見という形で何か書かれているという、そういったものについては承知しておりません。

山下よしき これはたまたまそこの部分に入っているだけなんですよ。労働関係の法令じゃないんですよ。そこでこういうことまで義務付ける、方向付けするというのは初めてなんですよ。
 私が何を言いたいかといいますと、雇用と労働という人間にとって生きていくもう基本的条件の問題について、こんな特区というやり方で、本来であれば三者構成主義ですよ、使用者側、そして労働者代表、そして政府代表が、三者が一致してとことん話し合ってルールを決めていく。そして、労働行政は労働者保護の原則に立って物を言わなければならないんですよ。そういう原則がすっ飛ばされる危険性がある。もう結論はここにあるんだから、その三者構成主義を具体化している労働政策審議会にももうあらかじめ結論を持って議論せいよというようなことをやっちゃったら、労働者保護のルールがこの特区法案を通じて骨抜きになるんじゃないか、そういうことを危惧するわけであります。こういうことをやってはならないと思います。
 最後、時間が来ましたので、もう一問だけ聞いて終わりにしたいと思いますが、新藤大臣にかかわる問題ですが、これ、ある新聞、日本経済新聞ですが、特区の選定場所について、東京、大阪、愛知というもう具体的な地名が報道されました。あわせて、官房長官が沖縄を提案した、新藤大臣は新潟を提案していると。沖縄の普天間の基地、柏崎刈羽原発再稼働に向けて利益誘導ではないかという報道でありましたけれども、これは事実でしょうか。

山東昭子内閣委員長 新藤大臣、時間が来ておりますので簡潔に。

新藤大臣 私がそのようなことを申し上げた事実はございません。

山下よしき 経過を見たいと思いますが、もしこのとおりのことやったら大変なことになるということですので、こういうことがあってはならないということで注視していきたいと思います。
 終わります。

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日本共産党参議院議員。香川県善通寺市出身。県立善通寺第一高校、鳥取大学農学部農業工学科卒業。市民生協職員、民主青年同盟北河内地区委員長・大阪府副委員長。95年大阪府選挙区から参議院議員初当選。13年参議院議員選挙で比例区に立候補3期目当選。14年1月より党書記局長。2016年4月より党副委員長に就任。2019年7月参議院議員4期目に。参議院環境委員会に所属。日本共産党副委員長・筆頭(2020年1月から)、党参議院議員団長。