NHK記者過労死/労働時間把握せず/参院総務委で追及 
2017年12月7日 参議院総務委員会

山下よしき 日本共産党の山下芳生です。
 NHKの「プロフェッショナル」という番組があります。11月20日は過労死事件と向き合ってきた弁護士を取り上げ、娘や息子が過労死した御遺族の声が幾つも紹介されました。

 大手広告会社勤務の娘24歳を過労自殺で失った母。私は娘を助けられなかった、守れなかったという自責の念でずっと来た。彼女が弱かったから自殺したんじゃないかと思われるのは不本意。彼女の尊厳を守りたいと弁護士を頼った。娘の尊厳を守ることができ、私が今生きていられる。

 システムエンジニアの息子27歳を失った母。なぜこんなことになってしまったのか合点がいかなかった、一生懸命育ててきた子ですから。息子は、おかん、俺のことあれからどうなったときっと聞くと思って、あの子に説明してやれることをきちんと持ってからあの子に会いに行こうと。こんなことは私だけで十分、繰り返されてはならない。

 胸が潰れる思いで聞きました。共通しているのは、なぜ我が子は死ぬほどまでに働いていたのか、なぜそのようなことになったのか原因を知りたい、そして、二度とこのようなことはあってほしくないという思いであります。

 野田大臣、こうした御遺族の声を踏まえるなら、私は労働者が働き過ぎが原因で死んでしまうことなど絶対にあってはならないと思いますが、大臣の認識、いかがでしょうか。

野田聖子総務大臣 委員のおっしゃるとおりです。私も母親の一人として、子供が働き過ぎで亡くなるということは絶対あってはならないことだと思います。

山下よしき 番組では、冒頭、NHKで起きた過労死を取り上げました。2013年7月、首都圏放送センターに配属されていた31歳の佐戸未和さんが、都議会議員選挙、参議院選挙の取材など連日の過酷な労働の中、参院選の投票日の2日後に寝室で携帯を持ったまま鬱血性心不全で亡くなり、翌年5月に過労死認定されました。

 上田会長、NHKの職場でこのようなことが起こったことについてどう受け止めていますか。

上田良一NHK会長 お答えいたします。
 若く未来のある記者が亡くなったことは痛恨の極みです。我が子を失った御両親の思いは察するに余りあるものがあります。

 過労死の労災認定を受けたことは大変重く受け止めています。公共放送を共に支える大切な仲間を失うようなことは二度とあってはならず、命と健康を守ることを最優先として、長時間労働の是正などの働き方改革に不断に取り組んでまいります。

山下よしき 番組では御両親の声も紹介されていました。佐戸未和記者の母、恵美子さん。毎日毎日、娘の遺骨を抱きながら娘の後を追って死ぬことばかり考えていました。本当に宝物だったんですね。それが本当に志半ばで、本人が一番無念だったと思います。私も主人も無念だけど、何より本人が無念だったと思います。父、守さん。未和の過労死の事実を踏まえて、その原因なりを含めて働き方改革を進めていただいて、二度と未和のような過労死が発生しないようにしていただきたいと。重い言葉だと思います。

 ジャーナリストの先輩として学生時代の佐戸未和さんを指導した下村健一さんは、あんなにエネルギッシュで、ヒマワリの花のような笑顔を振りまいていたみわっちが突然いなくなった、こんな理不尽な人生の打ち切られ方があっていいのか、NHKがどんなに前途有望な若き報道人を死なせたか知っていただきたいと、追悼記事を書いておられます。

 佐戸未和記者はどのような働き方をしていたのか。2005年に入局後、鹿児島放送局で勤務し、2010年から首都圏放送センターに勤務となり、主に東京都政の担当となりました。

 お母さんは、4回ほど鹿児島に行ったけど一度も会えなかったこと、都庁担当となった頃、1回だけ実家に泊まりに来たが、夕食をまるで飲み込むように平らげ、ささっとカラスの行水、ヨガを済ませるとすぐお布団へ、余りのスピードぶりにぽかんとしたこと、都庁近くのホテルで昼食をごちそうしてくれたときも、ばたばたっと来て、さあっと職場に戻っていったことなどを記者会見で紹介されています。

 表彰を2回ほど受けるなど、仕事はしっかりとしていた。責任感も力もある人でした。

 その佐戸記者が、2013年6月の都議選、7月の参院選の取材に当たる中、遺族と弁護士の調査によると、時間外労働が6月は188時間、7月は209時間にも上り、鬱血性心不全で亡くなりました。6、7月で休みは僅か3日、日付をまたいで25時、27時まで働く日も何日も続き、徹夜状態でほぼ24時間働いていたこともありました。

 上田会長にお聞きします。なぜこのような長時間、休日なしの労働を止められなかったのか、若い優秀な記者の死をなぜ防ぐことができなかったんでしょうか。

上田会長 当時、記者には事業場外みなし労働時間制を適用していましたけれども、勤務時間はタイムレコーダーの記録や記者自身がシステムに入力、勤務の始まりと終わり時間を上司が承認する形で把握いたしておりました。

 制度上、時間外労働時間という概念はありませんでしたけれども、労働基準監督署が労災認定のために算出した直近一か月の時間外労働時間はおよそ159時間と聞いております。休みについては、当時の勤務記録では、6月が3日、7月が22日まで1日だけだと把握しております。佐戸さんが亡くなり、労働基準監督署から過労死と認定されたことは痛恨の極みで、重く受け止めています。

 当時の記者の勤務制度であります事業場外みなし労働時間制は、勤務状況に応じた十分な健康確保措置がとることができませんでした。その後、記者については、働き方プロジェクトを立ち上げまして長時間労働の改善などに取り組んできたほか、今年4月からは勤務制度を抜本的に見直して、専門業務型裁量労働制を導入し、休日をきちんと確保するとともに、勤務状況に応じて段階的に健康確保措置を講じています。

 NHK会長として、佐戸未和さんの過労死を重く受け止め、今後二度と過労死を出さないよう、不断に働き方改革に取り組んでまいります。

山下よしき 今会長からあったように、佐戸記者が亡くなった当時、NHKでは記者に対し事業場外労働に関するみなし労働時間制を適用していました。事業場外みなし労働時間制というのは、事業場の外での業務のために労働時間の把握ができないということで、例えば八時間なら八時間働いたとみなすという制度であります。

 確認しますけれども、2014年5月、渋谷労働基準監督署がNHKに指導文書を発出しております。内容はNHKから聞きましたけれども、記者に係る事業場外のみなし労働時間制の適用について、記者の業務に通常必要となる時間を調査検討し、必要に応じて見直しを図ること、また記者の働き方にふさわしい労働時間制度について必要に応じて見直しを図ること、こういう指導だったこと、間違いありませんね。イエスかノーかで。

上田会長 受けております。

山下よしき 要するに、事業場外みなし労働時間制が記者にふさわしい制度だったのかということを指摘されたということであります。

 しかし、じゃ、事業場外みなし労働時間制度を導入すれば、実際の労働時間、時間外労働が100時間あるいは200時間でも問題ないのかというと、そんなことありません。労基法1条、労働条件は労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすべきものでなければならない。労安法3条、事業者は労働者の安全と健康を確保するようにしなくてはならないとあります。

 厚労省に確認しますが、たとえどのような働き方であっても、仮に事業場外みなし労働時間制であっても、使用者は労働時間を適正に把握すべきであり、必要な健康確保措置を講ずるべきではありませんか。

土屋喜久(厚生労働大臣官房審議官) お答え申し上げます。
 労働基準法におきましては、労働時間、休日、深夜業などにつきまして規定を設けておりますことから、使用者は労働時間を適正に把握するなど、労働時間を適切に管理する責務を有しております。事業場外みなし労働時間制などが適用される労働者につきましても、健康確保を図る必要から使用者は適正な労働時間管理を行う責務があるということでございます。

 また、労働安全衛生法におきましては、事業場外みなし労働時間制などが適用される労働者を含めまして、全ての労働者を対象に、時間外・休日労働時間数が百時間を超える労働者から申出があった場合には事業者が医師による面接指導を行うということを義務付けております。

山下よしき 上田会長、そういうことなんですよ。先ほど上田会長は事業場外みなし労働時間制だったら労働時間を把握なかなかできないとさらっとおっしゃいましたけど、違うんです。事業場外みなし労働時間制であっても、労働時間を把握し、適切な健康管理措置をしなければならないんです。また、望ましいと、そういうふうに指導されているんですね。ところが、NHKはそれをやっていなかったんですよ。

 先ほどありましたが、私、先日、NHK職員の方に何人か直接聞きました。当時、記者は、さっきおっしゃったように、タイムカードを打刻しているんですね、確かに。しかし、それは事業場外ですから、当日じゃなくて後刻ですね、後日、本局に本人が行ったときに出勤時刻と退勤時刻を自己申告で打刻することになっていた。自己申告する場合は、本人が自分の手帳などに記録しているメモに基づいて打刻する。その頻度は1月に1回程度のこともあったというんですよ。これでは、幾ら健康管理をしようと思っても上司はできないですね。だって、適切なタイミングで正確な時刻、時間を把握できないんですから。

 ここに問題があったと、本来はやらなければならぬことをできていなかったと、そう受け止めなければならないんじゃないですか、上田会長。

上田会長 お答えいたします。
 当時、今御指摘ありましたように、記者は事業場外みなし労働時間制を適用していましたが、勤務時間はタイムレコーダーの記録や記者自身がシステムに入力して勤務の始まりと終わりの時間を上司が承認する形で把握していました。

 事業場外みなし労働時間制は、事業場の外にいるので労働時間の算定が困難という前提の下、労働時間をみなす制度でありますけれども、当時、この制度では勤務状況に応じた十分な健康確保措置をとることができていませんでした。その後、記者につきましては、働き方プロジェクトを立ち上げまして、長時間労働の改善などに取り組んできたほか、今年の4月からは勤務制度を抜本的に見直して、専門業務型裁量労働制を導入し、休日をきちんと確保するとともに、勤務状況に応じて段階的に健康確保措置を講じております。

山下よしき もっと亡くなったことに対して胸の痛みを感じる必要が僕はあると思いますよ。みなし制度だから仕方がなかったという認識じゃ駄目なんですよ。

 大体、佐戸未和さんは、亡くなる二か月前、選挙の報道の取材でしたよね。だったら、都庁クラブに詰めていたというんですよ、情勢分析するんだったら一人でやるはずないんですよ、チームで集団でやっていたはずなんです。気付かない、人がいない、いなかった、止める人がいなかったということが私は重大な問題だと思います。

 一つ紹介したいと思いますが、佐戸記者の御両親は、NHKの職員から、記者は裁量労働制で個人事業主のようなものだとか、お母さんが娘は家族のエースだったと言ったことに対して、要領が悪く時間管理できずに亡くなる人はエースではないと言われたということです。亡くなった御遺族にこんなことを言うこと自体が信じられないんですが、そういうことを言われたそうですよ。事業場外みなし労働制の下で職場の認識がこんな状態、とりわけ直属の上司がこんな認識だったら、これだと忙しい時期に真面目な使命感、責任感の強い労働者は働き過ぎになりますよね。

 私は、上田会長、自己責任じゃないと思います。労働時間を把握し、健康管理を確保しなければならない使用者、経営陣、あるいは上司に当たる人たちがこういう認識でいたから佐戸記者を守ることができなかった、ここはしっかり受け止めるべきじゃありませんか。制度があったから、そういう制度だったから仕方がないではないんじゃありませんか。

上田会長 今の御指摘は、会長として私の方でしっかりと受け止めたいと思います。

山下よしき 野田大臣に伺います。
 NHKでの記者の過労死は、これは二度とあってはならないと思います。今回明らかになったNHKの事例は、放送あるいは新聞などメディア業界に共通する労働環境がもたらしたものとも言えると思います。放送の現場では一般的に、時間を掛ければ掛けるほど良い番組制作や取材につながるという経験論も根強くあると聞いております。しかし、それでいいのかと、過労死が起こるほど労働者が疲れ果てていて本当に良い仕事ができるのかという指摘もあります。

 過労死防止法では、国の責務として、過労死事案についてその原因などを調査、検証、分析しなくてはならないとされています。同様のことをメディア業界で二度と起こさないために、今回の事例を含め、国として調査、分析、検証して今後の教訓にすべきだと私は思いますが、野田大臣から厚生労働大臣にそういうことを進言すべきじゃないでしょうか。

野田総務相 過労死等防止対策推進法に基づく調査研究等については、今後、厚生労働省の中の過労死等防止対策推進協議会での議論を経て決められるというふうに聞いているところです。

 いずれにしても、今御指摘のように、NHKのみならず、各放送事業者においても、過労死等防止対策推進法の趣旨をしっかり踏まえて、是非とも過労死の防止に全力で取り組んでいただきたいと私は考えています。

山下よしき NHKで根絶するとともに、メディア業界全体で根絶しなければ過労死ゼロ社会は実現できません。大臣の役割は大きいということを申し上げたいと思います。

 上田会長、NHKは4月から専門業務型裁量労働制度を導入したということですが、これで佐戸記者のような事態は絶対にないと言い切れますか。

上田会長 お答えいたします。
 今御指摘ありましたように、今年4月に導入いたしました専門業務型裁量労働制は、労働状況を把握して健康確保措置を実施すること等が導入の条件になっております。記者に求められる自律的な働き方を担保しながら、法的裏付けのある措置を実施することにより、記者の健康確保を図ることとしています。

 この制度導入により、記者の働き方への意識改革が進み、勤務管理や健康確保の強化が図られたと考えていますが、会長として、ササキ未和さんの過労死の事実を重く受け止め、今後二度と過労死を出さないという思いを職員全員と共有するため、働き方改革に関する決意ともう一段の踏み込んだ取組を公表して徹底したいと考えています。その上で、私が先頭に立ち、NHKの業務に携わる全ての人の命と健康を守ることを最大の目標として、働き方改革を加速してまいります。

山下よしき 私、NHKさんから昨日、専門業務型裁量労働制適用者に対する健康確保措置というペーパーをいただきました。これによりますと、第一段階から第四段階まで健康管理時間に対応した健康確保措置を行うということが示されています。

 この健康管理時間とは何かといいますと、出勤時刻と退勤時刻の間の時間を暦月積算した時間(休憩等を含む)というふうにあります。この健康管理時間が何時間以上になったらこういう措置をとりますよということなんですが、この中身見て驚いたのは、労基署の認定した佐戸未和記者が亡くなる前一か月の総拘束労働時間、これは始業時刻から終業時刻までの時間の積算でありまして、NHKの言う健康管理時間と同じですが、実はこれ、佐戸記者が亡くなる前一か月は、この総拘束労働時間は349時間だったんです。このNHKさんの昨日いただいた基準に合わせますと、これ第一段階にとどまって、第二段階にも満たない基準になっていると。

 第一段階というのは何するかというと、出退勤画面での注意喚起メッセージの表示、労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストによる自己診断及び産業医による面接指導の勧奨でありまして、メールで気を付けてくださいよということが伝わったり、自己チェックリストでチェックするだけなんですね。だから、第二段階になっても、まだ医師にちゃんと診てもらうということが強制されるわけじゃないんですよ、上司と共有するというだけでね。第四段階になって初めて産業医による面接指導の原則実施ということになるんです。

 これで実際に第一段階の時点で亡くなった未和さんの教訓が踏まえられていると言えますか。

根本佳則(NHK理事) お答えいたします。
 今先生御指摘のように、まだまだ記者の勤務の在り方につきましては改善をするべき点があると思いますので、見直しをできる点につきましては速やかに検討を進めてまいりたいというふうに考えております。

上田会長 委員長、済みません。

竹谷とし子総務委員長 上田会長。

上田会長 先ほど私の答弁で固有名詞を間違って申し上げまして、佐戸未和さんというのを間違って言ったようで、訂正させてください。

山下よしき もう一つ心配なことがあります。局内全体で未和さんの過労死のことが共有化されていないのではないかということです。

 御両親は、未和のことが知られていない、教訓化されていないのではないかということで会見開かれている。だからNHKに公表してくださいということを申し入れたんだと思いますが。

 上田会長、私は、二度と過労死を生まないためには、佐戸記者の過労死がなぜ起こってしまったのか、なぜ防げなかったのか、その認識の共有化と一体に進めてこそ可能になるんではないかと思いますが、その点、いかがでしょうか。

上田会長 お答えいたします。
 御両親の思いを重く受け止めまして、また真摯に受け止めて、これから、御両親のお力添えも頂戴したい、頂戴しながら、再発防止と働き方改革ということに私を先頭にして取り組んでまいりたいと考えています。

山下よしき 時間参りましたので終わりますが、佐戸さんの死を経営陣とそれから全職員の皆さんが各々の胸に痛みとして刻まなければ、どんな制度をつくっても絵に描いた餅になるし、仏作って魂入れずになると思います。二度と起こさないということだったら、これまで十分周知されていなかったと聞きます、公表との関係もあったでしょう。しかし、もう公表されたんですから、未和さんの死はなぜ起こったのか、なぜ防げなかったのか、それを共有化してこそ制度に魂が入るんだということを申し上げて、質問を終わります。

About 山下よしき 364 Articles
日本共産党参議院議員。香川県善通寺市出身。県立善通寺第一高校、鳥取大学農学部農業工学科卒業。市民生協職員、民主青年同盟北河内地区委員長・大阪府副委員長。95年大阪府選挙区から参議院議員初当選。13年参議院議員選挙で比例区に立候補3期目当選。14年1月より党書記局長。2016年4月より党副委員長に就任。2019年7月参議院議員4期目に。参議院環境委員会に所属。日本共産党副委員長・筆頭(2020年1月から)、党参議院議員団長。