特別支援学校に設置基準策定の動き 
「あきらめなかったことが未来になる」

 他の全ての学校にあるのに、障害が比較的重い子どもが通う特別支援学校にだけない「設置基準」。保護者や教職員の粘り強い運動に押され、文部科学省はついに策定へ動きだしました。長年策定を求めてきた関係者は、子どもの成長と発達が真に保障される設置基準にしようと決意を固めています。(佐久間亮)

 特別支援学校の在籍数は2019年までの20年間で1・62倍に激増。一方、学校数は1・15倍にとどまります。学校の過大化・過密化が進んだ結果、教室が足りず一つの教室をカーテンで二つに仕切ったり、図書室や特別教室をつぶして普通教室に転用するなど、さまざまな問題が全国で起きています。文科省の調査でも全国で3162の教室が不足しています。

深刻な過大・過密

 国は、障害種が多様で一律の基準はなじまないとして特別支援学校に設置基準をつくってきませんでした。法的拘束力のある設置基準がないため教室不足を放置しても法令違反にならないことが、自治体が学校の新増設に取り組まない原因となってきました。

「しんぶん赤旗」2020年11月14日付の紙面

 保護者や教職員は12年に「障害児学校の設置基準策定を求め、豊かな障害児教育の実現をめざす会」を結成し、署名や国会要請を行ってきました。

 保護者として会の立ち上げからかかわる佐久美順子会長。子どもが通いだすまで、特別支援学校には通常の学校以上に手厚い支援があり、障害種に応じた施設があるものだと信じていました。実際は教室も教職員も足りず、過大・過密は年々深刻化。「これから入ってくる子どもや保護者のためにも声を上げなければいけないと感じた」と語ります。

賛同の輪広がり

 運動はメディアでも取り上げられ、国会では与野党の垣根を越えて賛同が広がりました。日本共産党は10年、教室不足など異常な状態をなくすために国に特別支援学校の「基準」策定を求めた「緊急提案」を発表。国会でも同年4月の宮本岳志衆院議員の質問を皮切りに、繰り返し要求。19年3月の参院予算委員会では、山下芳生副委員長の質問に安倍晋三首相(当時)が「現状を放置する考え方は全くない」と答弁しました。

 文科省の有識者会議は今年8月、「議論の整理」のなかで特別支援学校の設置基準の策定を要求。中央教育審議会(文科相の諮問機関)の10月の「中間まとめ」にも設置基準策定が盛り込まれました。

 佐久美さんは、「会の準備期間を合わせれば10年以上かかって国の姿勢を変えさせた。あきらめなかったことが未来になる」と強調。国が動きだしたいまこそ、保護者や教職員が願う設置基準へと運動を大きく広げたいと語ります。

 「社会の偏見や差別のなかで、障害のある子どもの親は学校に問題があると思っても言葉をのみ込んでしまうことが多い。子どもや親が言葉をのみ込まなくていいように、よりよい設置基準を願う声を集めて国に届け、特別支援学校に来てよかったと思える設置基準へと結実させたい」


生きること自体が価値のある社会へ

日本共産党 山下芳生副委員長

 特別支援学校の設置基準策定は、障害のある子どもの教育の問題にとどまらず、障害や病気があってもそれぞれの能力を発揮して成長し、社会に参加していく、生きること自体を価値あるものにする社会づくりにつながる問題です。

 教室不足など、他の学校であれば大問題になることが、設置基準がないため特別支援学校では放置されている。障害のある子どもに対する差別であり、これを変えるのは政治の役割です。

 昨年3月の国会質問では、事前に訪れた神戸大学付属特別支援学校で見た音楽の授業風景から始めました。多くの特別支援学校と違い、同校では定員が守られ、特別教室の転用も起きていません。子どもたちは先生の演奏に合わせて楽器を鳴らし、体をゆすり、声を出して笑っている。見ている私たちも自然と元気になるし、笑顔になる。人間って、教育って素晴らしいと理屈抜きに感じる光景でした。そこから質問を始めることで、どんな障害のある子どもも成長し発達する力を持っているし、教育にはそれを引き出す力があると伝えたいと思いました。

 続けて、音楽室が普通教室に転用された学校では音楽の授業なのに音を出してはいけなくなっていることを告発しました。与党席からも驚きの声が上がるなか、安倍首相(当時)は「現状を放置する考え方は全くない」と答弁。後日、文科省の初等中等教育局長が、有識者会議の検討課題の一つに設置基準を入れたと報告にきました。

 設置基準策定は大きな前進ですが、現状を追認する基準では困ります。既存校の過大化・過密化についても期限を切った対策が必要です。子どもたちにいい設置基準、いい学校を届けるためにこれからも頑張ります。


運動の積み重ねの成果

佐竹葉子 全教障害児教育部長の話

 国が設置基準策定へ動きだしたことは長年の運動の積み重ねの成果です。国会質問や障害者権利条約など国際的な流れも後押ししました。有識者会議の「議論の整理」でも、中央教育審議会の「中間まとめ」でも、「特別支援学校の教育環境を改善するため」に「設置基準の策定が求められる」としているのですから、児童生徒数の上限を示すなど、既存校も含めて過大・過密の解消につながる具体的な規定が必要です。


2020年11月14日付「しんぶん赤旗」より

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日本共産党参議院議員。香川県善通寺市出身。県立善通寺第一高校、鳥取大学農学部農業工学科卒業。市民生協職員、民主青年同盟北河内地区委員長・大阪府副委員長。95年大阪府選挙区から参議院議員初当選。13年参議院議員選挙で比例区に立候補3期目当選。14年1月より党書記局長。2016年4月より党副委員長に就任。2019年7月参議院議員4期目に。参議院環境委員会に所属。日本共産党副委員長・筆頭(2020年1月から)、党参議院議員団長。