被災者一人一人の生活再建を基本に据えて 
【議事録】 2013年5月31日 参議院災害対策特別委員会

山下よしき 日本共産党の山下芳生です。
 私たちは、復興対策の在り方として、阪神・淡路でも中越でも、また東日本でも、またその他の災害においても、被災者一人一人の生活の再建、地域コミュニティーの再建が基本に据えられなければならない、こう述べてまいりました。そして、生活の再建とは住まいとなりわいの再建であり、このことが地域社会と地域経済の復興を可能にするものだと、これも繰り返し述べてまいりました。
 そこで、古屋防災大臣に伺いますが、被災者一人一人の生活再建が基本に据えられなければならない、この点が今度の二法案の中で規定されている基本理念ではどうなっているでしょうか。

古屋圭司内閣府特命大臣(防災) 災対法におきましては、今回明確に規定をいたしました基本理念規定の一つとして、被災者一人一人の生活再建を図ることを含めて、被災者の援護を図り、災害からの復興を図るという規定をさせていただきました。
 また、大規模災害からの復興に関する法律案においても、基本理念にある被災地域における生活の再建とは、大規模災害から地域の生活を立て直し安定させることであり、被災者一人一人の生活再建を図ることを意味をしております。

山下よしき 大事な理念だと思います。
 もう一つ基本理念として伺いたいんですが、私は、地域の被災地の復興計画の策定に当たっては、上からの押し付けであってはならない、国やあるいは県が上から計画はこうあるべきだと押し付けてはならないと思っているんですが、これも阪神・淡路等の経験を踏まえてですね。この二法案では、その点どうなっているでしょうか。

古屋大臣 災害からの復興は、被災地域の住民の意向を尊重して行われるべきものであります。地域住民の主体的な取組というものが欠かせないものというふうに認識をいたしております。
 このため、今度の法律案においては、復興に当たっての基本理念として、地域住民の意向を尊重するような規定をしておりまして、復興計画の策定に際しても、公聴会の開催や住民の意見を反映させるために必要な措置、これを義務付けをいたしているところであります。また、復興計画やその実施について協議を行う復興協議会について、地域の実情において住民の参加が可能になるということも規定しているところであります。

山下よしき これまた非常に重要な理念だと思うんですが、その重要性を反面教師的に確認するために、私は阪神・淡路大震災後の神戸市長田区の再開発の事例を一つ紹介したいと思います。これは、上からの復興ではまずいという残念な事例なんですが。
 私、何回も長田区の再開発地区歩いているんですけれども、もうこれは五、6年前ですけれども、長田では、御承知のとおり最激震区なんですね、長田区というのは。再開発地区にされました。震災で焼けた長田の町にまだ煙がくすぶっているころに行政は上空からヘリコプターで視察をして、20ヘクタール余りの大規模な再開発計画を決定したんですね。住民が救援あるいは避難している間に行政がヘリコプターでそういうことを決めちゃったわけです。
 そこが今どうなっているかということなんですが、これ、5、6年前に私が実際に聞いた声をブログからもう一遍紹介しようと思っているんですけれども、再開発ビルに入居した商店主の皆さんの怒りと不満はもう強烈でした。例えば、食料品販売店経営者。再開発が完了するまで9年掛かった、地域密着型の商売にとって9年間は長過ぎる、荒れ果てた畑で商売するようなもんですわ、こんなでっかいビル建てて、火も使わぬのにスプリンクラーが六つも付いている、高度化資金3500万円借りたが2年後からの返済のめどはない、角地の店も出ていった、みんな困っているという声。それから、料飲店経営者の方。2500万円高度化資金を借りたが、返済が始まったらみんなばたばた潰れるんやないかな、ビルは立派やけれども中身を見てほしい、再開発に反対していた人の言うとおりになったと、こういう声でありました。これ、もう5、6年前の話ですが、もう入居して2年ぐらいでこんな声が出ていたわけですね。
 それで、今はどうなっているかということなんですけど、これ去年の5月の岩手日報ですけれども、この長田の再開発地区のことをこう評しております。商業床7万6300平方メートルの51%に当たる約3万9千平方メートルが売れ残り、市が所有している、倉庫に使われるなどシャッターを閉めた区画が目立つ、衣料品店を営む阿多澄夫さん、63歳は、売ることも貸すこともできないとため息をつく、復興を信じ頑張ってきたが町に震災前の活気は戻らず、採算割れが続き廃業を決めた、だが、開店前の借金約1500万円の返済が済んでいない、売却を考えたが、不動産業者に再開発ビルの店舗は値が付かないほど価値が下がり売れないと説明されたという。賃貸でも借り手が付かない、商店街には145平米、月10,000円ほどで貸し出されている区画がある、阿多さんは、市や市出資の管理会社が破格の賃料で出店させていることが原因とし、ただ同然の賃料が資産価値を下げている、これは人災、復興災害だと憤ると、こういう声であります。
 この記事では、続けて、どうしてこのような状況に陥ったのかと。日本茶販売店を営む伊東正和さん、63歳。これ、さっき紹介した6年前に意見を聞いた方なんですけれども。規模が大き過ぎたと、商売は震災前までいかなくともとんとんでやっていければいいと話す。兵庫県震災復興研究センターの出口俊一事務局長は、長田の再開発は行政が住民の声を聞かず強行した、まず震災前に戻し、それから落ち着いて10年20年先を考えてほしいと長田の教訓を踏まえて助言すると、こういう声であります。
 これ、でっかい再開発ビルが幾つも建っているんですけど、その地下一階部分と一階、二階部分が商業ゾーンになっていますけど、一階はともかく、二階部分と地下部分はもうこの再開発ビルが開店されたときからこういう状況がずっと続いていて、今やめるにもやめられないという状況があるわけですね。
 大臣、この復興災害という言葉が今言われているんですが、これしっかりと教訓にしなければならないと思いますが、いかがお感じでしょうか。

古屋大臣 御指摘をいただいた新長田駅前地区の再開発事業、これは阪神・淡路大震災において甚大な被害を受けた市街地の復興と防災公園等の整備、良質な住宅などを実施をするために、発災後2か月で都市計画決定を行い、それ以後、神戸市が施行する全面買取り型の第二種市街地再開発事業を実施しているところであります。
 神戸市においては、都市計画決定後の地元との調整のために、七地区のまちづくり協議会を設置をして神戸市と地元住民との調整を行い、必要な都市計画の変更を行った上で、既に地区内の当初計画の四十棟のうち32棟が完成し、地元調整も約1600の地権者との調整をほぼ終えているというふうに承っております。
 国としては、第二種市街地再開発事業は、防災性の高い市街地の形成のためには有効な手段だというふうに考えております。神戸市の地元調整と事業完成に向けた私は努力を見守っていきたいと思います。
 なお、既に建築をした再開発ビルにおける空き家問題についても、神戸市の独自施策で家賃の引下げなど努力を進めており、地域経済の再生のためにも神戸市が主体的に様々な努力を行っているというふうに考えております。

山下よしき 1回、大臣、ここ行かれたことありますか、古屋大臣。

古屋大臣 私は、当時、党の災害関係の部会の役員をいたしておりまして、度々足を運んでおります。最近はちょっと訪問しておりませんが、ずっとその過程は私は見てきております。

山下よしき 見てこられたということを踏まえての御発言としては、ペーパーを読まれたという感じがしたんですがね。
 行くたびに、私は、こういうやり方は、商店主の方、特にもうシャッター通りになっているし、やめられないという方がたくさんいらっしゃるし、こんなでっかいビルが要ったのかと。何年も何年も、9年掛かっているわけですよね。戻れないわけですよ、その間にもうよそに行った方が。そこで商売を始めた方がこういう苦境に立っているということでね。
 だから、僕は、復興というのは、やはり被災者、地元の方の声を聞いてしっかり進めないとこういうことになっちゃうと。これは神戸市を見守るというだけでは足らないんではないかなと私は思いますので、引き続きまた大臣にもしっかりと今の現状を見ていただきたいなということを申し上げておきたいと思います。
 もう一つ、現在解決すべき問題が阪神・淡路であるので、提起したいと思います。災害援護資金制度の問題です。
 阪神・淡路大震災からもう18年たっておりますけれども、今でも生活に困窮し、災害援護資金の返済に苦しむ被災者の方がおられます。災害により住居、家財に大きな被害を受けた場合又は世帯主が重傷となった場合に、市町村が最大350万円を貸し付け、生活の再建を支援する制度でありまして、償還期限10年間、年利3%、阪神大震災の場合は融資から5年間は無利子に据え置かれましたけれども、この阪神・淡路大震災の災害援護資金の貸付けと償還状況はどうなっているでしょうか。

西藤公司厚労大臣官房審議官 お答えいたします。
 阪神・淡路大震災における災害援護資金につきましては、件数57,448件、金額で約1326億円の貸付けを行っております。このうち平成24年3月末時点の償還状況は、償還済件数が42,812件、償還免除件数が2,284件、そして未償還の件数は12,352件で、金額で約185億円となっております。

山下よしき 兵庫県の未償還の率でいいますと、件数で20.2%ですね。神戸市だと22.8%という数字をいただいております。5人に1人は、もう18年たっていますけれども、まだ返し切れていないわけですね。しかし、返さなければならない状況にこの方々はあるんですよ。
 どういう方がそうなっちゃっているかと。少し具体的な例を紹介します。
 Aさん、現在69歳、女性、独り暮らしの年金生活者です。年金額は年41万円、月34,000円です。震災当時は会社員として働いて、その後退職されました。災害援護資金の返済は月20,000円です。生活費と毎月の返済をするためにパン屋さんやケアハウスのヘルパーなどアルバイトを掛け持ちして頑張ってこられましたが、しかし、もう高齢で体も限界。生活費に加えて月20,000円の負担は本当に重いということで、病気になられたことがきっかけになって返済は滞納となってしまいました。2年前、ひょうご福祉ネットワークという市民団体に相談に行かれて、生活保護を申請しなさいということで、現在、生活保護を申請しておりますけれども、災害援護資金の返済も小口返済にはなっておりますけれども、それでも返し続けなければならないわけです。
 Bさん、72歳、男性、タクシー運転手。震災後、当面の生活費のために300万円借りました。仕事もぼちぼちしかできないし、体もきついので、できれば引退したいんだけれども、保証人というのがやはりあって、迷惑を掛けるのでやめられないと。既に滞納がちになって保証人のところに請求が行って、申し訳ない思いでタクシーに乗り続けてきたけれども、結局、消化器系の病気を患って、保証人に迷惑を掛けまいと、昨年11月、タクシー会社を退職した退職金で援護資金の残りを返済し、今では生活保護で生活をされていると。退職金もそっちに費やされたということであります。
 Cさん、これはもう既に亡くなっている方ですが、女性の高齢者の方ですが、震災当時、夫婦で仮設住宅に入居して、県営住宅にその後移られました。仮設入居の際、当面の生活に困って、友人に保証人をお願いして援護資金を借りたと。その後、借受人の夫が他界して生活保護を受けるようになったと。それでも、私が死んでも返済は免除にならない、あの大変だったときに保証人を引き受けてくれた友人に迷惑を掛けるわけにはいかないと、返済を少額返済にしてもらって、少しでも保証人に借金が回らないようにと、70,000円弱の生活保護費の中から3,000円返し続けながら亡くなられました。もう18年たっている方が、生活に困窮した、生活保護に頼らざるを得ないような方が、保証人に迷惑を掛けたらあかんということで、ずっとこのおもしをしょい続けているわけであります。これが今の阪神・淡路大震災の援護資金借りた方の実例なんですね。
 そこで、もう一つ、東日本大震災の場合は、こういうことを踏まえまして特例が設けられました。どういう特例でしょうか。その内容と理由、教えてください。

西藤審議官 お答えいたします。
 東日本大震災では、災害援護資金につきまして、東日本大震災に対処するための特別財政援助及び助成に関する法律に基づきまして、償還期間について10年を13年に延長する、利息については3%を原則無利子、保証人がいない場合は1.5%にする。災害免除につきましては、貸付けを受けた者が死亡したとき又は重度の障害を受けた場合のほかに、支払期日到来から10年経過後において、なお無資力又はこれに近い状態にあり、かつ償還金を支払うことができる見込みがない場合を加えるなどの特例措置を講じております。
 こうした災害援護資金の特例措置は、甚大かつ深刻な被害に緊急に対処することにより、被災者、被災地の一日も早い平穏な生活を取り戻すため、被災者に対する特別の支援措置の一つとして講じられたものでございます。
 済みません、失礼いたしました。特例措置の内容の三番目ですが、償還免除についてということでございます。失礼しました。

山下よしき こういうふうに、無利子あるいは保証人なし、それからもう資力がない方、あるいはそれに近い方は償還免除なんですよ。これは、大事な特例だと思いますが。しかし、阪神の方は18年たっていても、もうほとんどの方は資力がないに等しい、にもかかわらず死ぬまで払い続けなければならない。もしこの東日本と同等の特例があれば、このおもしが取れて助かる、みんな高齢で義理堅い方々ですけどね。
 大臣、私は、これは少し、もうここまで来てなおこういうことでつらい目をしながら亡くなっていっているんですね。何とかならないか、何とかすべきじゃないかと思うんですが、大臣、いかがでしょうか。

古屋大臣 阪神・淡路大震災で被災された方が償還に大変苦労されている、よく承知はいたしております。ただ、法律上免除ができるのは亡くなったときか、あるいは体に著しい障害を受けたために償還ができなくなったと認められるときのみが免除になっていますので、法律を実施する市町村としてはこの規定に基づいて取り組んでいるというのが実情ですね。
 実際に、この厳しい状況の中で実際に返済を努力してこられた方もたくさんいらっしゃるわけでありまして、こういった方々との公平性ということを考えると、そう簡単に結論は出せる話ではないというふうに思います。

山下よしき 私も、そう簡単に結論が出せる話でないとは思うんです。思うんですけれども、18年たってこういう状況があるというのは、この制度が持っている、私は、東日本ではもうこれ特例で救われるわけですけれども、そうなっていないわけですね。
 市町村に返還しますけれども、その3分の2は国が出している、貸し付けているわけですから、国が決断すればかなりのことはできると思います。私は、少なくとも、生活保護あるいは準じる世帯は、高齢の方は、もうこれは償還免除してしかるべきじゃないかと。それから、もうこれは保証人は外したらどうだと。保証人に迷惑掛けたらあかんということで、もう亡くなるまで返し続けているわけですね。こういうことはちょっと検討すべきじゃないかと思うんですね。
 阪神・淡路の方が、これにしか頼るものがなかったんです。今、東日本の方は被災者生活再建支援法ができていますから、住宅再建、生活再建に個人補償的な支援があります。しかし、ないから、これしかなかったんですよ。もう返せるかどうか分からないけれども、これしかないからみんな借りたんです。そうしたら、返せない方がこんなにたくさん残っちゃって、今5人に1人がもうこんな高齢になっても残っていると。
 こういうことを、よく特殊な事情を考察していただいて、ちょっと大臣、これはもう一遍踏み込んで検討していただけないかと。

古屋大臣 今申し上げましたように、やはりこういった厳しい状況の中で実際に返済に努力してきた被災者の方も大勢いらっしゃるんですね。そういった方々との公平性というものを考えると、先ほども申し上げましたように、安易にそういった結論はなかなか出せないというのが現実だというふうに思います。

山下よしき 公平性というんだったら、阪神・淡路大震災の被災者には個人補償、生活再建支援金もなかった、これこそ不公平だということを申し上げて、終わります。

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日本共産党参議院議員。香川県善通寺市出身。県立善通寺第一高校、鳥取大学農学部農業工学科卒業。市民生協職員、民主青年同盟北河内地区委員長・大阪府副委員長。95年大阪府選挙区から参議院議員初当選。13年参議院議員選挙で比例区に立候補3期目当選。14年1月より党書記局長。2016年4月より党副委員長に就任。2019年7月参議院議員4期目に。参議院環境委員会に所属。日本共産党副委員長・筆頭(2020年1月から)、党参議院議員団長。