自治体の窓口業務などの民間委託できるようにする問題について 
2,017年6月1日 参院総務委員会

山下よしき 日本共産党の山下芳生です。
 前回に続いて、自治体のいわゆる窓口業務を地方独立行政法人に委託できるようにする問題について質問します。
 法案は、委託できる窓口業務の範囲を申請等の受理、処分、処理に関する事務であって、定型的なもののうち別表に掲げるものとしております。そこで、今日は別表にある母子保健法に関わる窓口業務について具体的に聞きます。
 別表では、妊娠の届出、母子健康手帳の交付、低体重児の届出又は養育医療の給付等を独法に外部委託できる対象としております。実は、この妊娠届の受付に関する業務あるいは母子健康手帳の引渡業務等は、既に2007年度に発出された内閣府の通知によって市町村の判断に基づき民間事業者に取り扱わせることが可能である窓口業務とされてきました。
 そこで、総務省に伺いますが、現在、妊娠届や母子健康手帳の引渡業務などを民間委託している市町村は幾つありますか。

福島章(総務省行政管理局公共サービス改革推進室長) お答えいたします。
 内閣府は、平成28年1月に民間委託の実施状況について全1,741市区町村を調査いたしておりまして、77・7%に当たります1,352市区町村から回答を得たところでございます。
 調査結果によりますと、妊娠届の受付及び母子健康手帳の交付に係る事務につきましては、民間委託を実施している市区町村は32ございます。回答のあった市区町村の2%となっております。一方、民間委託を検討したが実施しなかった市区町村は112でございまして、回答のあった市区町村数に対する割合は8%となっております。

山下よしき 僅か2%しかないということなんですね。なぜかと。私は、母子保健法に基づく自治体の業務というのは窓口業務だけを切り出すことができない業務だからだと、そう思います。
 関東のある自治体で母子保健の業務を担っている職員の方に話を聞きました。この自治体では、健康推進課母子保健係の幹部職員に保健師を配置し、市庁舎と同じ敷地内にある健康センター、ここで母子保健業務を担うわけですが、この健康センターには保健師が6人、栄養士が1人、それから歯科衛生士1人、計8人の有資格者が配置されています。ここでは妊娠届の手続に来た人にその場で保健師が直接声を掛け、短時間でも面接するようにしています。面接では、子育て支援の情報を共有、提供しながら、兄弟姉妹の状況あるいは既往症などもアンケートに記述してもらうようにしています。対応者が保健師ということもありまして、安心して自分の状況を話してくれ、行政の側もそれに合わせてその人への支援をプランニングしていくことができるということであります。
 なぜこんなことをやっているのか聞きますと、赤ちゃんが自分のおなかの中で日々育っていくけれども、出産まで無事に行けるのか、生まれたらどうしたらいいのかなどなど、お母さんになっていく人たちの不安は大きい、妊娠の届出に来たときの様子や話し方などから落ち込みなど精神的状況が分かる人もいる、知られているように子供への虐待はその4割が母親によるものであることからも、妊婦さんの出産や育児への不安を解消する支援が重要となるという認識で仕事に当たっているということでした。そして、ここでは、妊婦相談会があるよとか、子ども家庭支援センターでもこんな取組をしているよとか、一人親へのホームヘルパー支援もあるよなどなど、情報を伝えて不安が解消できるようにしているということでありました。
 それから、妊娠届を保健師のいない出張所に届ける場合もあります。それから、妊婦さんではなくて家族などによる届出がされる場合もありますが、こういう場合も必ず妊婦さん本人が面接できるようにその予約を入れてもらうようにしているそうでありまして、希望があれば妊婦さんの御自宅への訪問もされているそうです。
 そして、赤ちゃんが生まれたときには戸籍係への出生届とは別に母子保健係に出生通知を出してもらうようにしておりまして、妊娠届から見てもうぼちぼち出産ではないかと思われる方なのに出生届が出されていない場合は電話するなどして、出産後の訪問など切れ目のない一人一人への支援につないでいっていると。非常に丁寧に、安心して相談から支援へとつながるようにされておりました。
 少し長くなりましたけれども、私自身聞いておりまして大変感動しましたので、全部紹介させていただきましたけれども、そこで、総務大臣、このような自治体の努力、どう評価されるでしょうか。

高市早苗総務大臣 私も今お話を聞いていて大変感動いたしました。
 窓口業務というのは、住民の皆様の状況を直接に把握すること、それからやはり自ら行政の情報を直接お伝えすること、そしてまたさらには様々な情報を得て施策につなげていくこと、そういう重要な役割を担っていると思っております。

山下よしき ありがとうございました。本当そう思うんですね。
 私は、この職場の皆さんから聞いた、妊娠届の受理はお母さんになる人と自治体の担当者の初めての出会いの場ですという言葉に大変印象を持ちました。母子一人一人に対する愛情のある、そして切れ目のない支援の出発点が窓口での妊娠届の受理です。ですから、そこを切り離して、そこだけ独法に委託してしまったらこうした支援ができなくなるんじゃないかと。具体的な話、聞けば聞くほど、この妊娠届の受理業務の切離し、独法への委託というのはそういう支援をできなくするんじゃないかなと思わざるを得ないんですが、いかがでしょうか。

高市総務相 地方独立行政法人制度でございますが、住民の生活の安定並びに地域社会及び地域経済の健全な発展に資することを目的とするものでございます。これは法律上の規定でございます。
 ですから、今委員が様々御紹介いただきましたように、やはり住民の皆様にとってより親切な対応をしていく、それからまた保健師の方や栄養士の方におつなぎをしていく、そういう工夫はそれぞれの窓口によって対応可能なものだと思っております。
 5月30日に、本委員会におかれまして参考人質疑をされたということでございますが、富山市長から、住民に身近な場所に市の職員を配置して、住民とのきめ細やかな接点を設ける取組が紹介されたことも承知しております。
 また、衆議院の方でも現地視察で板橋区に行かれたということですが、民間委託によって捻出した人的資源を投入して住民の相談窓口を充実させて、また、窓口数を増やして待ち時間を短縮されるといった効果のあった取組が紹介されたと思っております。
 いずれにしましても、民間委託の事例であっても、定型的な申請、届出というのは民間委託の対象としながらも、住民の方々の御相談については市町村職員が直接担当するという取組であったり、また、責任者レベルの定期的な協議といった工夫がされていると思っております。
 この地方独立行政法人では、定型的な業務を処理するものではあっても、法律上はこれは市町村の事務とされているけれども一部を民間委託するという場合とは異なっていて、市町村長の関与を受けながら、法律上自らの業務として窓口業務に当たるものでございますから、工夫した取組というのは期待できると思っております。
 個別の優良事例、今委員がおっしゃったようなお話もございますけれども、今後個別の優良事例についても横展開を図ってまいりたいと思っております。

山下よしき 個別の優良事例、あったら教えてほしいんです。民間委託した母子保健の窓口で、私が言ったような、委託していない、職員があるいは保健師が直接窓口で妊娠届の受理の段階からさっき言ったようなサポートをしている、そういうことを民間委託した自治体でやれているところありますか。

安田充(総務省自治行政局長) お答えいたします。
 今の事例については承知していないところでございます。調べておりません。

山下よしき 調べてもないと思いますよ、私。どうしたらそんなことができるか、あったら具体的に教えてほしいんですけど、今ないということでした。
 このさっき私が紹介した自治体では、妊婦さんが窓口に来るのを職員の皆さんが大歓迎で温かく包み込むようにして待っているというんですよ。いやいや、本当ですよ、私はそういう印象を受けたんです。私は、この人たちから命を生み出す性と新しく生まれてくる命への慈しみを感じました。そういう方が、母子保健に係る様々な専門知識と経験を持った職員がお母さんになる人と初めて接するのが妊娠届の受理の場なんですよ。
 確かに受理という業務だけを切り離してみれば定型的かもしれません。書いたペーパーを1枚受け取るだけですからね。しかし、受理のその瞬間、その場で、専門知識と経験ある職員が、母子への愛情あふれる職員が話を聞いて、不安を軽減して、必要な支援の出発点にしている、それが現場の実態なんですね。受理業務だけを定型的として切り離したら、こういう包摂的なサポートへの道が遮断されることにこれなるんじゃないかと。いかがですか。

安田局長 今回の地方独立行政法人制度の改正、窓口業務を行う法人の設立でございますが、これはあくまで新しい選択肢を用意したということでございまして、かつ、その別表に掲げた事務についても、全ての事務をこの制度を活用する場合に行わなければならないということではございません。
 幾つかの選択肢がある中で、当該市町村の工夫によって制度を活用していただく、そのための選択肢の一つとして用意したものでございまして、市町村の工夫によって適切な業務を行えることを期待しているものでございます。

山下よしき 工夫ってどんなのですかと、民間でどんな工夫しているんですかとさっき聞かれたときに、区分したスペースの利用だと、そうしないと偽装請負になるから、独法だってそうなるんだと。今さっき私が言ったような、もう愛情を持って窓口で待っている人を区分したスペースに切り離しちゃったら、もうそれ包摂できないじゃないですか。これは私、どう考えても、母子保健法が述べている「母性は、すべての児童がすこやかに生まれ、かつ、育てられる基盤であることにかんがみ、尊重され、かつ、保護されなければならない。」、そして、都道府県及び市町村はそのために必要な措置を講じなければならないということからして、この出生届の切離しはそのことから大きく後退せざるを得ないと申し上げておきたいと思います。
 それからもう一つ、衆議院の答弁で局長は、法律の別表からは非定型的な事務が除かれる、生活実態の確認が必要となる生活保護の受給申請の受理、こうしたものは市町村長の指揮監督権の下で職員が引き続き処理することが適当であるために除外していると、こう答弁されました。
 生活保護の申請の受理を非定型的な事務としているのはなぜですか。

安田局長 お答えいたします。
 生活保護の受給申請の受理に当たりましては、保護を必要とする者の確実な保護を実施できるように、収入や生活状況の把握を行い、法の趣旨や他法他施策の活用について丁寧に説明し、真に急迫状態となっていないかの把握、こうしたものが必要となることから、市町村長の指揮監督の下で職員が引き続き処理することが適切であると判断し、法律の別表から除外しているものでございます。

山下よしき 私、定型か非定型かという形のことを言っているんじゃないんですよ。要するにこれは、生活保護の申請というのは、本来、本人が住所、氏名、そして生活保護の受給が必要な理由、これを書いて出せば受け取るべきなんですよ。受け取らなければならないんですよ。水際でそれを申請させない、受理しないようにしているという問題が、この間、政府、厚労省の生活保護受給の抑制政策の中で実際に窓口で起こってきました。北九州では、おにぎりが食べたいと餓死した、そういう事件も起こりました。
 私、今回のこの法律に基づく別表の仕分は、生活保護については窓口独法に委託してこれ定型的に受理させてはならないんだということなのかと思いましたよ。ほかの申請については簡単に委託対象としつつ、ここだけはそうしない。これまでどおり、職員に水際作戦をやらせて生活保護の利用者を抑制するということが意図じゃないんですか。

安田局長 お答えいたします。
 今回の別表の規定を作成するに当たりましては、最初に御指摘もございましたように、平成27年度の内閣府の通知、民間事業者に委託することが可能な窓口業務の範囲ということを検討のベースにいたしまして、各省とも協議の上で別表案を規定させていただいたということでございます。
 内閣府通知の中にも生活保護についての規定がございませんで、新しく今回の検討の中でそれを加えるという意見もございませんでしたし、また先ほど言いましたような説明もございましたので、今回別表には入れていないということでございます。

山下よしき 今おっしゃったようなさらっとした話だとそういうふうに聞こえるんですけれども、これまでの歴史があるわけですよね。窓口で申請を受理しないというふうに抑制してきた歴史がある。しかし、生活保護の申請というのは憲法25条に基づく国民の権利ですよ。ですから、行政は申請を受理した上で調査を行い、審査を経て保護の決定をすればいいわけで、申請の受理を権力的に抑制することは憲法上許されない、窓口での申請抑制を前提にした不当極まりない私は意図的な定型、非定型の仕分も許されないと、これ見ながら強く感じました。
 ですから、私はもう今回の総務省の窓口業務の位置付けがよく分かりました、いろいろ考えてみて。一つは、定型業務の独法移行で、先ほど言った母子保健の業務のような、住民の様々なニーズを行政が窓口ですくい上げて必要なサービスへとつないでいくことを遮断してしまうと。それからもう一つは、意図的な仕分で生保を水際作戦で抑制するなどの、非定型業務を意図的に定義すると。結局、いずれにしても窓口で国民の権利保障を抑制するということにこれは客観的になっているんじゃないかと、そう言わざるを得ません。これ、やり取りしても仕方がないので次に行きたいと思いますけど。
 それで、設立される窓口業務を委託される独立行政法人は、これ効率化などが目的であることからすると、当然人件費の抑制が前提とされることになります。行政から運営費交付金の削減圧力を受ければ職員の処遇を下げることになって、職員の非正規化、流動化が起こらざるを得ないのではないかと思います。
 衆議院で安田局長は、職員の勤務条件や給与などを柔軟に設定できる、繁閑期に応じた人員配置などが期待できると答弁されています。
 そこで聞きますが、窓口独法が職員を有期労働契約として雇用することは可能か、また、民間の派遣会社から派遣労働者を受け入れることは可能か。いかがでしょうか。

安田局長 お答えいたします。
 公務員型の特定地方独立行政法人につきましては、任用に関しまして地方公務員法が適用されますので、地方自治体と同様に、正規職員のほか、臨時・非常勤職員、改正地方公務員法施行後には会計年度任用職員ということになりますが、この任用が可能でございます。
 また、非公務員型の一般地方独立行政法人につきましては、地方公務員法の適用はありませんで、民間事業者と同様、正規職員のほか、臨時職員、非常勤職員を含めて様々な雇用形態が可能だというふうに考えております。

山下よしき 短期契約労働であっても派遣労働であっても可能だということであります。そうしますと、その時々の業務量に応じて短期の契約で入れ替わるということが大いにあるということなんです、窓口独法の職員は。
 そうすると、大変な疑念が私、生じると思います。扱うのは戸籍法、障害者手帳、国保、年金、母子保健、住民基本台帳、マイナンバーなどなど、住民の個人のプライバシーに関わる申請等を外部委託するわけですから、これ、幾ら守秘義務を契約上掛けたとしても、次々と人が入れ替わるわけですから、これは、多数の様々な人が住民の個人情報に接して、それから独法から辞めていって一般の人になっちゃうと。これは個人情報保護という点で大きな漏れを生じさせるおそれはありませんか。

安田局長 お答えいたします。
 地方独立行政法人が派遣労働者を雇用したり、また有期の職員を雇用するというケースはもちろんあるというふうに思いますけれども、個人情報保護の観点から、その委託した業務に係る個人情報の保護に関する規定はきちんと整備していくということは重要なことだというふうに考えています。
 このため、総務省といたしましては、地方公共団体について、委託先においても個人情報が適切に保護されるよう必要な措置を講ずることを当該地方公共団体に義務付ける等の規定を設けることとすべきであるという助言をしておりますほか、窓口業務を含む業務の民間委託の推進に当たっても個人情報保護の配慮は重要との観点から、平成27年8月に発出した総務大臣通知におきましても、委託の実施に当たっては、個人情報の保護に十分留意し、必要な措置を講ずることとされておりまして、各地方公共団体においては、こうした通知を踏まえて、それぞれの個人情報保護条例の中で、委託でございますとか派遣労働者等についても適用になるような必要な規定の整備を行っている例があるというふうに考えているところでございます。

山下よしき 公務員の場合は厳格な守秘義務があって、これ違反したら刑事罰ですよ。ところが、民間委託であれ独法委託であれ、そんな守秘義務は課せられないんですね。
 実際、私、大阪で、前回紹介しましたけど、地方税の部署で民間委託された職員の方が辞めさせられるわけですよ、繁閑期がありますからね。そうしますと、いろんな思いがあるんでしょう。自分が得た個人情報を実際に相手へ送り付けるということまで事件としてあったんですね。
 だから、これは本当にそういうことが、幾ら手だてをしても、人ですから、個人情報を漏らすのは、一層そのリスクは高まらざるを得ないというふうに指摘しておきたいと思います。
 最後になりますが、今回、複数の自治体が連携して一つの窓口独法を設立できるということになったと理解しておりますが、具体的にどのような形になるんでしょうか。例えば、各自治体の窓口にそれぞれ独法の職員が今までどおり配置されるのか、あるいは、中心自治体に窓口職員が全部一つにまとめられて集約されることも可能なのか。いかがですか。

安田局長 この一つの地方独立行政法人を他の市町村が活用する場合の形態ということについては、法律に特に規定はございませんけれども、私ども想定しておりますのは、各市町村においても直接職員が執行しなければならない業務というのは残りますので、各市町村の窓口に、地方独立行政法人の業務というのが、職員も張り付いて業務というのが行われると、こういう形態が一般的であろうというふうに想定しているところでございます。

山下よしき 一般的であろうと想定と言うんですが、これはもう実際に法律上は規定していないんだよね。
 委託された複数の自治体から、大きな委託先の独法ができたとしますよね。しかし、地方自治体が出資するわけですから、そんなむちゃくちゃなことはやらないかもしれませんが、貧すれば鈍ですから、そういうことにならないとも限りません。一つの窓口にもう集約してしまえということが起こらないとも限らない。そうなったら、次はもう自治体の新たな合併ということになっていかざるを得ない。それを私、危惧しますし、ならなくたって、一つの独法になったら、当然職員間の入替えはあるわけですから、これまでだったら窓口で業務している方はその自治体の職員だった、入れ替わったとしてもその自治体の職員としてずっとやっていたのが、今度はもう別の自治体で働いている人が次々次々に窓口に入れ替わる可能性もあると。それでさっき言ったような住民に親切な、親身な、要求を酌み上げてニーズにつないでいく、サービスにつないでいくということができるのかというと、余計できにくくなるんじゃないかというふうに思わざるを得ません。
 時間が参りました。これは、本当に非常に大きな、自治体とは何ぞやという点に関わってくる問題を非常にはらんでいる重大な法案だと、もっと審議が必要だということを申し上げて、終わります。

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日本共産党参議院議員。香川県善通寺市出身。県立善通寺第一高校、鳥取大学農学部農業工学科卒業。市民生協職員、民主青年同盟北河内地区委員長・大阪府副委員長。95年大阪府選挙区から参議院議員初当選。13年参議院議員選挙で比例区に立候補3期目当選。14年1月より党書記局長。2016年4月より党副委員長に就任。2019年7月参議院議員4期目に。参議院環境委員会に所属。日本共産党副委員長・筆頭(2020年1月から)、党参議院議員団長。