歴史の教訓を忘れることなく、放送の自主自律、政府からの独立を揺るがず貫くことが必要 上田NHK会長に質問 
2017年3月30日 参議院総務委員会

山下よしき 日本共産党の山下芳生です。
 退任した籾井前NHK会長は、就任会見で政府が右と言うことを左と言うわけにはいかないと発言したり、原発報道については政府の公式発表をベースに伝えることを続けてほしいと指示したりするなど、公共放送であるNHKの在り方を理解していない言動を繰り返され、国民の間で公共放送と政府の関係はどうあるべきかが大きな議論となりました。
 そこで、まず高市総務大臣に聞きます。
 公共放送と政府の関係はどうあるべきか。私は、放送法第1条、パネルにしましたけれども、(資料提示)とりわけ第2号、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。」、第3号、「放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。」、これが公共放送と政府の関係の大切な基準になると考えますが、大臣は放送法第1条の意義についてどのように認識されているでしょうか。

高市早苗総務大臣 放送法第1条は、放送を公共の福祉に適合するよう規律し、その健全な発達を図ることを目的として規定するとともに、同条第2号として「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。」、第3号として「放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。」などの原則というものを定めております。
 この第2号でございますが、放送法に定める規律の確保はできる限り放送事業者の自主的な規律に委ねられるべきものであるという趣旨で設けられています。また、第3号は、放送に携わる者の職責を明らかにすることによって放送が健全な民主主義の発達に資するようにすることを規定しています。
 これは、戦後、新憲法の下で放送法第1条がこのように制定されました背景としてでございますが、戦前、放送分野を規律していた無線電信法の規定は広範な裁量権を主務大臣に与えており、言論の自由を保障する新憲法の精神にそぐわないことから、民主主義的な考え方に立脚したものとする必要があったということ、さらに、放送の社会的影響力の大きさから、無線電信法に規定する電波の管理の面からの規律のみでは不十分であり、放送の自由、不偏不党、放送の普及などについて規律をする必要があったということなどによると承知をいたしております。

山下よしき 憲法まで触れていただきました。
 上田NHK新会長にも同じ質問をしたいと思います。
 公共放送と政府の関係はどうあるべきか。私は、この放送法1条、これが大切な基準になると考えますが、会長、いかがでしょうか。

上田良一(NHK会長) お答えいたします。
 私も全く同意見でありまして、放送法1条は、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって放送による表現の自由を確保することや、放送が健全な民主主義の発達に資することなど放送法の目的を定めたもので、放送法の根幹ともいうべき重要な規定であると認識いたしております。

山下よしき 籾井前会長の言動が話題となったときに、問題となったときに、イギリスの公共放送であるBBCの元会長、グレッグ・ダイク氏のインタビューが毎日新聞に掲載されました。パネルにいたしましたけれども、ダイク元会長はこう述べております。公共放送にとって重要なのは政治家を監視することだ。党派に関係なく公正公平に全ての政治家を監視すべきだが、特に権力の大きい政府の監視はより大切だ。そのために公共放送は政府から独立していなければならない。政府と公共放送では目的が違う。政治家や政府の目的は権力の維持だ。権力を握った政治家は、自分たちが権力に居座ることが国益に合致すると考える。それを踏まえた上で公共放送は、政治家の言うことが真の国益なのかチェックすべきだ。民主主義社会において公共放送の役割は、権力への協力ではなく監視だ。民主主義社会において公共放送の役割は、権力への協力ではなく監視、そのために公共放送は政府から独立しなければならないと。
 上田会長に伺いますが、イギリスの公共放送BBCの元会長はこういう認識を示しておりますが、日本の公共放送NHKの会長としてこういう認識おありでしょうか。

上田会長 お答えいたします。
 NHKは、自ら定めた番組基準や放送ガイドラインにのっとり、報道機関として不偏不党の立場を守り、何人からも干渉されない、私は就任に際し、役職員一体でこの原則を貫こうと呼びかけたところであります。
 公平公正を守り、放送の自主自律を堅持する、これが信頼される公共放送の生命線と考えております。そのためには、職員は不断に自らを律していかなければなりません。さらに、放送法に基づく審議機関や視聴者の反響に耳を傾け、放送現場と一線を画した考査システムをしっかりと機能させる、こうした取組を続けることで常に自らを律してまいりたいというふうに考えております。

山下よしき 自律というのはいいんですけれども、私がこのBBCのダイク元会長で問いたいのは、公共放送の役割は権力の監視とはっきりうたっていることであります。この権力の監視が役割だという認識、会長おありですか。

上田会長 NHKのよって立つところは、視聴者・国民の皆様の信頼であります。これが何よりも重要と考えております。この信頼を得るためには、報道機関として自主自律、不偏不党の立場を守り、公平公正を貫くことが公共放送の生命線であることを認識しておりまして、会長の職責をしっかりと果たしてまいりたいと思います。
 今委員御指摘の公権力の監視もジャーナリズムの機能の一つだというふうに認識いたしております。

山下よしき まあ役割の一つだということでありましたけれども。
 この放送法1条にある健全な民主主義の発達に資する、健全な民主主義の発達というのは、権力の監視なくしてはあり得ません。権力の監視がなくなったらこれはもう独裁政治になりますから、放送が権力を監視してこそ民主主義の発達に資することができるようになると思います。
 実際、NHKはこれまで権力を監視する、あるいは政府をチェックする番組を幾つも作ってまいりました。私が印象深く記憶しているのは、2011年5月に放送された「ネットワークでつくる放射能汚染地図」という番組であります。東京電力福島第一原発事故の影響でどれだけの放射能が漏れてどのように地域が汚染されたのか、科学者たちが被害の実態を科学者個人のネットワークを使って計測、分析することにされました。番組を私も何回か見ましたけれども、乗用車に放射線測定とGPSの両機能を併せ持つ装置を積み込んで、福島第一原発の周辺の道路を網の目のように走り回って、一点一点つなぐように計測をしたわけであります。走った距離は3,000キロであります。
 NHKは、震災3日後からこの科学者の活動に同行し、取材をされました。そして、放送された番組では計測で浮かび上がった放射能汚染地図が紹介されたわけですが、それは、政府による20キロ、30キロの同心円による線引きではない、放射能の汚染の正確な分布が目に見えるものとして紹介をされました。また、周囲に比べて放射線量が極めて高いホットスポットで避難生活する被災者の実態も明らかにされました。
 私、当時番組を見てまず感じたのは、こういう研究者がいたのかということと、それからもう一つは、よくぞNHKは同行取材して報道してくれたなということでありました。この番組は、福島で何が起こっているのか事実を伝えることで、国民がこれから原子力発電とどう向き合うべきか考え議論する上で貴重な貢献になるだろうし、これは全人類的にも意義のある仕事ではないかと感じた次第です。現に、この番組は視聴者から大きな反響があって、文化庁芸術祭賞大賞、日本ジャーナリスト会議大賞など数々の賞を受賞されました。
 上田会長に伺いますが、NHKがこういう番組を作り、視聴者から歓迎され、社会的にも評価されていることをどう思われますか。

上田会長 お答えいたします。
 憲法で保障された表現の自由や放送法の規定をしっかりと踏まえて視聴者・国民の期待に応えるのが公共放送NHKの役割だと考えております。また、ジャーナリズムは国民の知る権利に応えることだと認識いたしております。この役割を果たすためには、不偏不党や自主自律の立場を守り、番組編集の自由を確保することが何よりも大事だと認識いたしております。

山下よしき 設問とちょっと違うお答えだったんですけれども。
 角度を変えて聞きますけれども、私は、こういう番組は、政府が右と言うことを左と言うわけにはいかないとか、原発報道は公式発表をベースに伝えてほしいという方針の下ではこんな番組はできないと思うんです。いかがですか。

上田会長 お答えいたします。
 今委員が評価していただきましたように、そういった真実に基づく報道をしっかり守ることが公共放送の役割だと私も認識しておりまして、そういった報道に心掛けるように私も執行を担っていきたいというふうに考えております。

山下よしき 前会長のことにはなかなか言及されないんですけれども、要するにそういうことだと思いますよ。
 憲法との関係については先ほども高市大臣から答えがありましたので、石原経営委員会委員長に聞きます。
 戦後、郵政省電波監理局長として放送法の制定に関わった荘宏さんという方があります。その荘宏さんの著作、「放送制度論のために」という本の中に、国は経営委員会委員の任命のみを行い、その他の人事構成、NHK業務方針の決定、人事権に基づく執行機関に対する監督を全て経営委員会に信託している、NHKはその組織及び人事について非常に強固な自主性、独立性を与えられていることになると、こう述べております。
 石原委員長に伺いますが、私は、NHKに国からの強固な自主性、独立性を保障するために経営委員会がつくられた、この歴史を踏まえて、委員長としての決意を伺いたいと思います。

石原進(NHK経営委員長) お答えいたします。
 NHKは受信料で支えられている公共放送であります。したがいまして、視聴者の期待に応える健全な経営が行われるよう、公共の福祉に関して公正な判断をすることができ広い知識と経験を有する者のうちから、国民の代表である国会の同意を得て、内閣総理大臣に任命された委員による合議体として経営委員会が設けられたものであります。
 経営委員一人一人が国民の代表である国会の同意を得て任命されたという重い責任を深く自覚して、放送法に従い、公共放送NHKが視聴者・国民の皆様の信頼によって成り立つ経営ができるように監督していくことが経営委員会の役割だと認識しております。

山下よしき 要するに、先ほど高市大臣がおっしゃったように、戦前は政府が直接いろいろ指示していたんですね。それじゃ駄目だと、今から言いますけれども。その戦前の反省の上に立って、国が直接介入できないように、国民を代表する経営委員会がNHKを管理監督すると、そのために経営委員会はあるんだということを自覚していただいて任に当たっていただきたいと思います。
 昭和女子大の竹山昭子先生が1994年に書かれた「戦争と放送」という本があります。私もこの委員会で何回か紹介してまいりましたけれども、竹山先生は、太平洋戦争さなかの放送を直接聞いた経験をお持ちです。後書きにこうあります。
 女学校に入った年の12月であった。朝7時のニュース、本8日未明、西太平洋において、アメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れりの大本営発表が響いてきた。このときの驚きはいまだに忘れられない。こんなことをして大丈夫だろうかが、そのときの感慨であった。
 また、先生は終戦の日の玉音放送も聞かれています。私は玉音放送を聞き終わると、一人で靖国神社に向かった。そのときの情景は今もまぶたに焼き付いている。社殿の玉砂利にぬかずいていたのは、ほとんどが私と同年齢の勤労動員の生徒たちであった。
 こういう体験をされた竹山先生が、戦後、東京放送、TBSに勤めた後、教職に就き、書かれたのが「戦争と放送」という著作であります。戦前の放送の実態を示す原典の史料に当たられながら、それから戦前の放送、ラジオ放送に直接携わった方々の声を聞きながら書いた本であります。
 この本の中に次の一節があります。1925年、大正14年にラジオ放送を開始して以来、戦前、戦中の我が国のラジオはジャーナリズムではなかった。ジャーナリズムたり得なかったと言えよう。戦前、戦中のラジオには報道はあっても論評はなかったからである。さらにその報道も、放送局独自の取材による報道ではなく、太平洋戦争下では国策通信社である同盟通信からの配信であり、放送は政府、軍部の意思を伝える通路にすぎなかった。大変重い史実であり、指摘だと思います。
 上田会長に伺いますが、戦前の放送が戦争遂行という政府、軍部の意思を伝える通路にすぎなかったという痛苦の歴史を踏まえて、1950年、放送法の第1条に先ほど述べたようなことが明記された。そういう認識はおありでしょうか。自分の言葉でできれば御回答いただきたい。

上田会長 お答えいたします。
 放送事業者は、放送を通じて表現の自由や民主主義といった憲法上の価値の実現に資することが求められているものと認識いたしております。その実現のために、健全な民主主義の発達に資すること等の目的が放送法1条に掲げられているものと考えております。

山下よしき 戦前の反省、教訓を踏まえてということを聞いたんですが、まあ、もういいでしょう。
 さらに、NHKはそこを深刻に受け止めなければならないということを紹介したいと思います。このパネルは、1942年、昭和17年1月1日、日本放送協会会長小森七郎が、聴取者の皆様へと題する放送を行ったその内容であります。ちょっと紹介します。
 昨年12月8日、我が国がついに多年の宿敵、米英に対し矛を取って立つに及びまするや、我が放送事業もこれに対応する新たなる体制を取るに至ったのであります。番組内容はことごとく戦争目的の達成に資するがごときもののみといたしました。私ども全国五千の職員はこの重大なる使命に感激しつつ、もって職域奉公の誓いを固くし、全職員一丸となって懸命の努力をいたしておるのであります。
 上田会長、ここのところの認識を問いたいんです。要するに、戦争推進の一翼を担わされたにとどまらずに、戦争推進の一翼をまさに自ら担う宣言まで、NHKの前身、戦前の日本放送協会は宣言してしまったということなんですね。この事実、どう受け止めますか。

上田会長 前身の社団法人日本放送協会の時代には、放送内容に対する政府からの指示や検閲などが行われており、こうした歴史的な経緯を踏まえ、戦後民主主義の下で、自由な放送を保障するために放送法が制定され、現在のNHKの形になったものというふうに認識いたしております。

山下よしき 言葉はシンプルでしたけど、私は、その歴史を踏まえという言葉の中に新会長の思いが込められていたというふうに受け止めました。
 私は、NHKで働く人はこの歴史の教訓を忘れることなく、放送の自主自律、政府からの独立を他の放送事業者以上に揺るがず貫くことが必要だと思っております。
 最後になりますが、戦後、新生NHKの初代会長に選ばれた経済学者の高野岩三郎氏は、1946年4月30日に行われた会長就任の挨拶で、太平洋戦争中のように専ら国家権力に駆使され、いわゆる国家目的のために利用されることは厳にこれを慎み、権力に屈せず、ひたすら大衆のために奉仕することを確守すべきであると宣言されました。戦争推進のための権力の道具であったことと決別し、自主自律の公共放送としてのスタートを高らかにうたい上げたものだと思います。上田会長にはこの高野会長の言葉をかみしめていただきながらNHKの経営に当たってもらいたいと、そのことを申し上げて、時間が参りましたので終わります。

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日本共産党参議院議員。香川県善通寺市出身。県立善通寺第一高校、鳥取大学農学部農業工学科卒業。市民生協職員、民主青年同盟北河内地区委員長・大阪府副委員長。95年大阪府選挙区から参議院議員初当選。13年参議院議員選挙で比例区に立候補3期目当選。14年1月より党書記局長。2016年4月より党副委員長に就任。2019年7月参議院議員4期目に。参議院環境委員会に所属。日本共産党副委員長・筆頭(2020年1月から)、党参議院議員団長。