山下よしき 日本共産党の山下芳生です。
まず、住民訴訟に関する部分について質問します。
憲法は、公選制の地方議会及び首長を設置しており、地方自治行政においては間接民主制が原則であります。しかし、間接民主制による自治体運営が住民の意思に反して代表者の恣意、専断、独断によって行われ、住民の利益に反する結果になる場合もあり得ます。そのような場合、地方自治法は、住民の意思を直接地方行政に反映させ、住民自治の徹底を図るために、住民によるリコール制度などの直接請求権等の直接参政制度による是正制度を設けているわけであります。その住民の直接参政による是正制度の一つが住民監査請求であり、住民訴訟であります。
まず、高市総務大臣に、こうした住民監査請求、住民訴訟の位置付け、意義について認識をお聞きしたいと思います。
高市早苗総務大臣 住民監査請求制度及び住民訴訟制度は、住民自身が監査請求や訴訟を提起するということを通じて地方公共団体の財務の適正性を確保することを目的とする制度でございます。不適正な事務処理の抑止について一定の役割を果たしてきたと認識しております。
山下よしき 実際、これまで住民監査請求、住民訴訟は、例えば政務調査費、政務活動費の不正使用、あるいは高過ぎる随意契約、談合による自治体の損害などの財務会計上の不当・違法行為の防止、矯正に重要な役割を担ってきました。
そこで聞きたいんですが、第31次地方制度調査会、昨年3月16日の答申では、4号訴訟の対象となる損害賠償請求権の訴訟係属中の地方議会による放棄を禁止する必要とあったわけですが、ところが、今回の改正案を見ますと訴訟係属中の放棄の禁止規定がありません。なぜでしょうか。
安田充(総務省自治行政局長) お答えいたします。
御指摘のように、訴訟係属中の損害賠償請求の放棄につきまして、第31次地方制度調査会答申では、4号訴訟の対象となる損害賠償請求権の訴訟係属中の放棄については、長や職員の賠償責任の有無について曖昧なまま判断されるという問題もあり、不適正な事務処理の抑止効果を維持するため禁止することが必要という指摘をしていたところでございます。
しかしながら、その後検討を行ったわけでございますが、住民訴訟の係属中に限って権利放棄を禁止することは、むしろ住民監査請求中や住民訴訟提起前の権利放棄を誘発することになりかねないなどの課題があること、また、たとえ訴訟係属中に放棄されたとしても、平成24年の最高裁判決の枠組みに照らしてその有効性について訴訟の中で判断されることになるということから、今回の改正におきましては制度化を行わなかったものでございます。
権利放棄の議決につきましては、今触れました平成24年の最高裁判決で枠組みが示されておりまして、これに照らして訴訟の中でその有効性が判断されるというものでございますので、まずそれがあるということ。それから、今回、地方公共団体の長や職員個人が負担する損害賠償額を限定する措置を設けることにしておりますが、これが設けられればより一層慎重な判断が求められることになるものと、このように考えている次第でございます。
山下よしき 先ほど、神戸大学名誉教授の阿部参考人は、慎重な判断が求められることになるというのは分かるけれども、悪いやつはおるんだということで、それでもこの議決が不正にやられる危険性は拭えないとおっしゃって、もう大変なこれは後退だ、大改悪だという趣旨の御発言をされておりました。
今、局長から二つ御答弁があったんです。一つは、住民訴訟の係属中に限って権利放棄を禁止することは、むしろ監査請求中や住民訴訟の提起前に議決してしまわれることになるんじゃないかということで、これはもうとんでもない珍論だと私は思いましたよ、聞いて。だったら、住民監査請求の段階からもこんな議決はできないように禁止すればいいわけであって、後ろで禁止したら前に行くから後ろの禁止も前の禁止もしませんというのは、これは通用しない理屈ではないかと思います。
それから、二つ目におっしゃった、平成24年の最高裁判決で枠組みが作られたから、仮に議決が不当な場合は裁判でちゃんと正せられるであろうと、その放棄がこれはもう認められないだろうということをおっしゃいましたが、私もこの三つの裁判の最高裁判決、読ませていただきました、全部一緒なんですけれども。そこで、その枠組みなるものを見たら、いろいろ書いてあるんですけれども、住民訴訟の係属の有無などなども入っておりますが、最後は諸般の事情を総合考慮して放棄が妥当かどうかを判断するとなっておりまして、結局諸般の事情の総合考慮なんですね。
ですから、仮に係争中に議会が議決したら、係争中の議決だからちゃんと裁判で正されますねということにはなっていない、諸般の事情ですから。つまり、その訴訟を提起する住民の側にとったら、これは何の歯止めにもならないんです、裁判をやってみないと分からないということになりまして。
そうなりますと、結局、私は、議会の議決による債権放棄が無制限に認められることに事実上なれば、これは、今日、阿部先生が一番心配されていましたけれども、間接民主制で選ばれた代表者が暴走したときに、住民自らがその是正を図るための直接参政制度である住民監査請求や住民訴訟を抑制することになるんじゃないかと、こう心配されていましたが、その心配ありませんか。
安田局長 訴訟係属中の放棄の禁止ということでございますが、理由二つ述べさせていただきましたけれども、その最高裁判決の枠組みは先ほど御指摘あったとおりでございます。
いずれにいたしましても、こうした枠組みに沿って、その議決が裁量権の範囲の逸脱、濫用に当たると認められるときは議決は違法となり、放棄は無効となるというふうに判断されているわけでございまして、さらに、この判決の後に、例えば平成26年6月には鳴門市の関係の訴訟で放棄自体が無効とされたという、高裁段階でこの判決の枠組みに沿って無効とされたという事案も出てまいっております。これは訴訟係属中に放棄されたと。
ということで、私どもは、先ほどの繰り返しになりますけれども、訴訟係属中の放棄を禁止しなくても、最終的にこの最高裁判決の枠組みに沿って判断がなされるものであるので、係属中の放棄の必要性はないんではないかと、このように考えた次第でございます。
山下よしき 何遍も紹介して恐縮ですけれども、阿部泰隆神戸大学名誉教授はこう言っているんですよ。現行制度では、住民訴訟には障害物が多過ぎ、これを代理するのはもうくたびれ、正義のため、法治国家のためといっても無理だと感じている。現行制度でももういろんな手続があってくたびれちゃって、もう私は代理はしませんと先ほどおっしゃっていましたよ。その上、権利放棄議決が正当化されて、せっかく勝ったはずが敗訴にされてはおよそチャンスがなくなるので、なおさらであると述べているんですね。
豊富な住民訴訟の代理人の弁護士としての御経験がおありの阿部先生の言葉どおり、これはせっかく勝ったはずの訴訟が事実上敗訴にされちゃう、議決によってもう債権の権利放棄されたらですね。本当怒っていたんですよ。これ、単なる机上の研究者が怒っているんじゃないんですよ。住民訴訟をもう数々やってきた、代理人として頑張ってこられた先生が、こんなことをやられたらもうなり手はないですよと言って怒っておられるわけですから、これは住民訴訟制度、監査請求制度の抑制をもたらすことは明らかであるということをまず申し上げておきたいと思います。
次に、今回の法案が認めることになる独立行政法人に窓口業務の委託化を託すことについて聞きたいと思います。
31地制調の人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申などを受けて、今度の地方独法の業務に窓口関連業務を追加することになったわけですが、しかしながら、そもそもこの人口減少社会に的確に対応すると称して政府が現に進めている諸施策を前提にしていいのかということをまず問いたいと思います。
これも、午前中の参考人として来ていただいた奈良女子大学の中山徹先生がこうおっしゃっておりました。過大な人口減少予測が必要以上の行政のコンパクト化、公共施設の統廃合を進め、行政力の低下を招き、市民生活の破綻、地域経済の衰退、財政状況の悪化となり、人口減少の加速化という悪循環になる、こういう指摘でありましたけれども、私は新鮮かつ共感できる指摘だなというふうに思いました。現にそういう地域が生まれていると私も思います。
高市大臣、この指摘に対して、御認識いかがでしょうか。
高市総務相 非常に厳しい財政状況の中にはありましても、人口減少、高齢化の進行、それから行政需要の多様化といった社会経済状況の変化に適切に対応して、質の高い公共サービスを効率的、効果的に提供するという観点から地方公共団体において業務改革を進められ、そこで捻出された資源を人口減少などの諸課題に集中的に投入するということが肝要だという基本認識を総務省としては持っております。
住民サービスの提供の在り方ということにつきましては、住民の福祉の増進に努めるということとともに、最小の経費で最大の効果を上げられるように各地方公共団体におかれまして地域の実情に応じて判断されるべきものでございます。行き過ぎた人口減少予測ということで何か悪影響が出てくるのではないかというようなことにならないように十分に配慮しながら業務改革を進められる必要があると思っております。
山下よしき 時間がないのでこの議論はしませんが、行き過ぎた人口予測を押し付けているのは政府だという指摘もあったことを紹介しておきたいと思います。
では、法案の中身について質問したいと思います。
地方独立行政法人法第2条では、地方独立行政法人とは、住民の生活、地域社会及び地域経済の安定等の公共上の見地からその地域において確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、地方公共団体が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に委ねた場合は必ずしも実施されないおそれがあるものと云々かんぬんとなっておりますが、今回、この地方独法に委託可能な業務として、市町村の長に対する申請、届出の受理に関する事務、いわゆる窓口業務のうち定型的なものとして具体的に20の分野の業務が掲げられておりますけれども、大臣に伺いたいんですが、これらの20の業務は自治体が直接実施する必要のないものという仕分を大臣はされたということですか。
高市総務相 地方独立行政法人法第2条において、地方独立行政法人が行う業務は、地方公共団体が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるものと地方公共団体が認めるものとされておりますので、法律上、その認定の主体は地方公共団体でございます。私ではございません。
山下よしき まあ形はそうなっているんですけど、これまでは窓口関連業務は委託できるものの中に入っていなかったんです。それを今回の法改正で委託できるものの中に、地方自治体が判断すれば委託できるというふうにしたのは、そう判断したのは政府、総務省ですから。すなわち、委託してもいい、自治体が直接やらなくてもいいこともあり得るんだという判断を今回初めてされたわけですね。
それでいいんだろうかというふうに問いたいわけですが、衆議院の委員会質疑で参考人として意見陳述された中央大学名誉教授今村都南雄さんとお読みするんでしょうか、こう言っておられます。窓口業務の現場に行ってみれば一目瞭然のことでございますけれども、来庁した住民の求めに応じてぱっぱと処理できるような単なる定型的な事務ばかりではございません、個別の申請をきっかけにして、定型的な事務処理にはなじまない住民側の様々な事情を察知して、各部署の協力を得ながら対処しなければならないことが少なくないわけでありますと、こういうふうにおっしゃっています。
これはもう非常に大事なことなんですね。定型的なところだけ切り出すというふうに今回の説明聞いたんですが、定型的なものだけに切り分けられない様々な住民のニーズがそこに、そこからつながっていくのが窓口業務だという指摘ですが、いかがでしょうか。
安田局長 御指摘ございましたように、窓口業務に併せて住民からの相談を受けるといったようなケースがあって、従来民間委託しかできませんでしたから、一部の業務について、民間委託を行った場合にはこうしたものについて課題が生ずるのではないかという議論があるということも承知しているところでございます。
こうしたものにつきまして、現在の民間委託の事例では、コンシェルジュを配置して来訪した住民の方々から最初に用務を聞き取って適切な部署へ誘導する取組でございますとか、住民の方々からの御相談については市町村職員が直接担当する取組を行うなど様々な工夫がなされているというふうに承知しているところでございます。
今回、地方独立行政法人が定型的な窓口業務を行う場合でも、このような従来民間委託を行っていた際に工夫されていた事案を参考にいたしまして様々な取組を行っていただけるものというふうに考えているところでございます。
山下よしき コンシェルジュを置けばいいんだというふうに聞こえましたけれども、何でそんなものを一々置かなければならないのか。職員がちゃんと聞けばいいということですよ。
先ほど江崎さんから紹介ありましたけれども、午前中に参考人として来られた富山市長森雅志参考人、市長が、歩いて行ける2キロ圏内に一つ窓口の出先をつくったと、計市内で79か所。フェース・ツー・フェースが大事だと、一か所4人の職員の方がおられて、定年後の再任用された方で、逆に経験豊かで窓口業務するには非常にいい仕事をされているということでありました。強力な民営化推進論者の片山虎之助さん、維新推薦の参考人の方でしたけれども、窓口業務は市の職員でやることが必要だという認識をはっきりと示されたわけであります。
私も直接、窓口業務を担っておられる自治体の職員の方々から意見を聞きました。非常に貴重な意見を聞けたと思っています。自治体職員にとって、窓口は大事な仕事だと。窓口で住民と直接接する中で、必要な手続が何なのか、制度の勉強をしながらケース・バイ・ケースで対応できるようになっていく。窓口の業務をこなせてやっと一人前になっていく。例えば、子供が生まれたら出生届をしてもらうが、同時に住民登録や年金、健康保険の手続、児童手当の手続なども必要になる。さらに、保育や一人親支援などについても様子を見ながら声を掛けてニーズを引き出すよう、それぞれの職員は努力している。
つまり、自治体職員は窓口の業務をこなせて一人前になっていく、さらに住民にとっても、窓口での一通の出生届から年金、健康保険、保育など様々なニーズが引き出され、それに見合うサービスが提供される入口、出発点になっている。これを切り離してしまっていいのかと。これ、住民にとっても職員にとっても大きな損失になるんじゃありませんか。
安田局長 お答えいたします。
御指摘ございましたように、私どもといたしましても、市町村の窓口業務は出生から死亡まで、住民が行政サービスを受ける身分の証明、又は権利若しくは義務の確定、あるいは変動の基礎となる行為が含まれる重要なものでありまして、かつ、特に適切な実施が求められるものであると認識しているところでございます。
今御指摘のような様々な、何といいますか、不安といいますか指摘があるということは承知しているわけでございまして、それにつきましては今民間委託をしている団体においても、先ほど申し上げましたような様々な工夫を行いながら対応しているという例はあるということでございます。
今回の地方独立行政法人制度の改正というのは、あくまで選択肢を一つ提示するということでございますので、こういう地方独立行政法人を活用し、かつ、先ほど申し上げましたような様々な工夫をしながら窓口業務を運営していくのか、あるいは直営のまま今後も推移していくのか、あるいは民間委託という形で従来のものを使いながら運営していくのかということは、各地方公共団体が住民の福祉の向上という観点から適切に選択されるべきものと、このように考えている次第でございます。
山下よしき 時間が来ましたのでまとめますけれども、私は、さっきのコンシェルジュと聞いて驚いたんですよ。私が聞いた自治体で働く皆さんの声、それぞれの課でローテーションを組んでみんなで窓口対応するようにしているというんですよ。これ、数か月の新人もベテランの職員も、住民にいろいろ聞かれることで制度の矛盾、暮らしの実態が分かる、自治体に求められている課題が窓口で分かる、窓口で住民と対応する中で問題意識を持って幹部職員にもなっていくということなんですね。単なる定型的な仕事をしているんじゃない、そこでやはり自治体としてのニーズをつかみ、何が必要かを考える職員が育っていき、幹部になっていくということなんですよ。コンシェルジュにそんなことを任せていいのかということであります。
もう時間参りましたので、次回、自治体の窓口業務を切り離して地方独法に委託することがどのような問題を生じさせるのか、具体的に質問したいと思います。
ありがとうございました。
(注)4号訴訟:地方自治法242条の2第1項第4号に定められている住民訴訟。自治体職員などに対する損害賠償請求や不当利得返還請求をすることをその自治体の執行機関または職員に対して求める訴訟をさす。