2018年7月19日、参議院本会議で山下芳生参院議員が行なった「伊達忠一参議院議長不信任決議案に対する賛成討論」は、以下の通りです。
日本共産党を代表して、伊達忠一議長不信任決議案に対する賛成の討論を行います。
議長にとって最も重要な役割は、選挙によって選ばれた全国民の代表者によって構成される参議院を、公平かつ円満に運営することです。
前回選挙直後の2016年8月1日におこなわれた本会議での議長選挙において、投票総数242票中、241票を得て当選したのが伊達忠一君でありました。当選した伊達新議長は、就任あいさつで「もとより微力ではございますが、公平無私を旨として、議院の正常かつ円満な運営を図り、わが国二院制のもとで参議院がその使命と役割をしっかりと果たしていけるよう、全力をつくす決意でございます」と表明しました。
あれから2年、残念ながら、伊達議長による本院の運営は、「公平無私」「正常かつ円満」とはほど遠く、与党に偏った異常かつ強引な運営に終始したといわねばなりません。
以下、具体的に議長不信任に賛成する理由を述べます。
賛成理由の第一は、伊達議長が、議会制民主主義の土台である選挙制度を改革するにあたり、本院を構成するすべての会派による協議を重ね、できるだけ多くの会派の合意を得る努力をつくすという議長にとって最大の使命を放棄し、最大会派・自民党の党利党略に与したからであります。
昨年2月1日、伊達議長のもとでの初の各派代表者懇談会が招集され、そこで議長から、選挙制度改革を含む参議院改革に取り組みたい、ついては各派代表からなる協議会をつくりたい旨の発言がありました。わが党は、投票価値の平等を実現するために都道府県単位で選挙区定数を配分する現行方式の抜本見直しを行うことを求めた最高裁判決に則り、参議院選挙制度の抜本改革を実現することはかねてよりの懸案であり、それを含む各派協議会の設置に賛成であると表明しました。
同時に、わが党は、自民党が従来から主張している憲法改定については、各党・会派間で意見の隔たりが大きく、各会派の合意を得る必要のある選挙制度改革の前提としないことを確認するよう伊達議長に求めました。その際、山崎正昭前議長が、各派代表者懇談会において、憲法改定を選挙制度改革の前提にしないことを表明し確認していることも紹介しました。他の会派からは、複数の野党に加え、与党である公明党の代表者からも憲法改定と選挙制度改革を切り離すよう求める意見が表明されました。
こうした意見は、単に憲法改定に反対あるいは消極的立場からのものではなく、第一に、選挙制度という民主主義の土俵づくりに、各会派合意の障害となる問題をもちこむべきではない、第二に、自民党の主張する憲法改定を前提とした選挙制度改定には、都道府県代表の選出を投票価値の平等よりも上位に置くという重大な問題が含まれている、との指摘であり、わが国における民主主義の到達点に立脚した、まさに理性と良識ある見解でした。
ところが、伊達議長は、こうした与野党の意見に一切耳を傾けず、山崎前議長のもとでの見識ある確認も反故にして、自民党の意のままに、参議院選挙制度改革に憲法改定の議論をもちこむことを容認したのであります。
伊達議長のこの判断が、その後、参院選挙制度改革をめぐる協議に混迷と混乱をもたらす一因となりました。参議院改革協議会のもとに設置された各派代表からなる選挙制度専門委員会において、案の定、自民党が憲法改定を前提とする改定案を提案し、それに固執し続けたために、1年間17回に及ぶ各派協議が重ねられたにもかかわらず、合意を得ることができず、専門委員会は今年5月、各論併記の報告書をまとめざるを得なかったのです。最初にボタンを掛け違えた伊達議長の責任は、改憲前提案に固執した自民党とともに、きわめて重いと言わねばなりません。
こうした事態を踏まえ、6月13日、議長が招集した各派代表者懇談会で、野党はそろって、専門委員会など各派協議の場で議論をやり直すべきと提案しましたが、伊達議長は、自民党が突然持ち出した、抜本改革とは到底言えない、比例代表に「特定枠」をもうける党利党略むきだしの選挙制度改定案を前提に、「各党も案があれば法案として提出してもらいたい」と驚くべき「仕切り」をおこない、席を立とうとしたのであります。野党各党代表者が、猛烈に抗議するとともに、自民党案の問題点を7点具体的に指摘し、回答を求めたために、議長の「仕切り」は不発に終わり、翌日再度の各派代表者懇談会がもたれることとなりましたが、これは伊達議長のイニシアチブではなく、野党の結束した抗議と提案の結果です。
翌14日の各派代表者懇談会では、自民党から7項目の質問に対する回答が文書で行われ、野党各党から、賛否はともかく自民党案の説明がなされたので、改めて各派協議の場で議論をやり直し、合意を得る努力を尽くそう、議長斡旋も検討してはどうか等の提案がされましたが、伊達議長は、聞く耳を持たず、「各党も案があれば法案として提出してもらいたい」と「仕切り」、野党が抗議する中、席を立ってしまいました。直後、自民党は党利党略の選挙制度改訂案を法案として提出したのです。
伊達議長が、この局面でおこなうべきは、各派合意に背を向け続けたあげく、一度も議論していない党利党略の案を持ち出した自民党の態度をさとし、改めさせ、議会制民主主義の土台である選挙制度の改革を、各派の協議と合意にもとづいてすすめるよう最後まで努力を尽くすことでした。その役割を完全に放棄し、「公平無私」「正常かつ円満」な運営という自らの約束も踏みにじって、自民党の党利党略に進んで手を貸した伊達議長の振る舞いは、当然、不信任に値すると言わねばなりません。
賛成理由の第二は、伊達議長が、記録的豪雨による被害が現在進行形で拡大するなか、国権の最高機関である本院が、行政府とともに、救命・救助、被災者支援、復興など災害対応を優先させるよう求めた野党各党代表の要請、本院の決議にもかかわらず、議長としてのイニシアチブを微塵も発揮しなかったからであります。
7月9日、参議院野党各会派代表は、伊達議長あてに、「平成30年7月豪雨」災害についての緊急申し入れをおこないました。そこには次のようにあります。
「台風7号および前線等により全国各地で発生した『平成30年7月豪雨』による災害については、すでに明らかになっている状況からも、最大級の災害である。
今なお安否不明で、究明・救助を待っておられる方が多い状況であり、天候によってはさらに事態が深刻化する可能性もある。また、全国各地に被害が及んでおり、行政府にととどまらず、国会も含めて非常に深刻な事態であると受け止め、対応しなければならない状況である。よって、行政府、立法府が一体となって取り組む態勢を整えることは当然である。
立法府はこの災害対応を最優先に取り組むべきであり、災害対策特別委員会など災害対応に専念されることを望む。
参議院議長におかれても、こうしたわれわれの提案を重く受け止め、ご対応いただきたい」
全国民の代表者たる国会議員であるならば、与野党、党派の別なく当然共感されるべき内容であり、本院を代表する議長は正面から受け止め、ふさわしいイニシアチブを発揮すべき内容です。
さらに7月11日、同主旨の内容の決議が本会議で全会一致で採択されました。全会一致の決議に立って、いよいよ行使すべきイニシアチブを一切発揮しないまま、カジノ実施法案の委員会審議を延々と続けさせたことは、十分不信任に値するものです。
最後に与党諸君に申し上げたい。いま述べた伊達議長の責任はもとより免れませんが、議長のこうした態度の背景には、政府・与党とりわけ伊達議長の出身会派である自民党の、国民の声を恐れぬ数におごった姿勢があることを指摘しなければなりません。三権の長を党利党略の道具として使うがごとき振る舞いを、謙虚に反省し悔い改めるためにも、与党諸君が、伊達議長不信任案に賛成するよう進言するものであります。さもなければ、首相の嘘と疑惑の解明に背を向け続け、選挙制度を数の力でもてあそび、災害対応よりも賭博解禁を優先する勢力は、必ず主権者・国民によって、市民と野党の共闘によって、厳しい審判を受けるであろうことを忠告し、賛成討論を終わります。