日本共産党を代表して、働き方改革一括法案について安倍総理に質問します。
政治家にとって言葉は命です。たとえ自らに不都合なことであっても、真実に真摯に向き合う姿勢があるなら、その言葉は国民の心に響くでしょう。ところが、総理、あなたの言葉にはそれがありません。自らに掛けられた疑念に対する誠実で真摯な姿勢が全く伝わってきません。
総理、あなたにとって言葉とは何ですか。あなたの言葉は国民の心に響いているとお考えですか。
過労死の悲劇を二度と繰り返さない、総理の言葉です。しかし、全国過労死を考える家族の会の寺西笑子会長は、衆議院の意見陳述で、過労死防止法に逆行する働き方改革関連法案、強行採決は絶対にやめてくださいと訴えました。
総理、あなたの言葉は過労死遺族に響いていないことをどう受け止めますか。遺族が求めた総理との面会を拒否したのはなぜですか。
法案の根拠である労働時間調査で、ねつ造や異常値が次つぎ発覚しました。調査自体がずさんで信用性がないということです。加藤厚労大臣は、結論には変わりがないと言いますが、精査の結果、特別条項付き労使協定を結んでいる事業場で、年間の時間外労働が1000時間を超える企業の割合が、3・9%から実に48・5%に跳ね上がりました。
2015年2月20日、衆議院予算委員会でわが党の志位委員長が、経団連役員企業の8割が月80時間の過労死ラインを超える残業協定を結んでいる実態を示し、異常と思わないかとただしたのに対し、総理は、実際はこんなにしょっちゅう残業しているわけではなくて、念のために結んでおくと答弁しましたが、その根拠となったのがこの精査前のデータです。
総理、志位委員長に対する答弁は撤回すべきではありませんか。根拠が崩れた以上、法案を労政審に差し戻すのが当然ではありませんか。
法案は、時間外労働の限度時間として、月45時間、年360時間を法定化します。政府は、戦後の労働基準法制定以来70年ぶりの大改革と自慢しますが、法案は、特別に事情があれば、単月百時間未満、2ないし6か月平均で80時間の残業を可能にしています。これでは、幾ら罰則付きの時間外労働の限度を設けるといっても、過労死水準の残業に国がお墨付きを与えるだけではありませんか。過労死が大きな社会問題となっているときに、なぜ過労死を合法化するようなことをするのですか。
衆議院の質疑で、月をまたいで業務が集中すれば30日間で160時間の残業もあり得ることが明らかになりましたが、その歯止めはないことを認めますか。
残業時間規制で最も実効性がある措置は、週15時間、月45時間、年360時間という大臣告示を労働基準法に明記し、例外なく全ての労働者に適用することです。
ILOは、労働時間に関して18本もの条約を採択しています。一本も批准していない先進国は日本と米国だけです。長時間労働をなくすというのなら、ILO条約を批准して国内法を整備すべきです。総理、批准するつもりはありますか。
法案は、残業代ゼロ制度である高度プロフェッショナル制度を導入します。この制度は、労働時間規制を全面的に適用除外にし、八時間労働制を根底から覆すものであり、戦後の労働法制を否定する制度です。
総理は、時間ではなく成果で評価される働き方を選択できるようにすると言います。しかし、すでに成果主義が導入された職場の実態は、成果を上げるために際限のない長時間労働となっています。これ以上、政府が成果主義をあおっていいのですか。成果主義で働く労働者にこそ労働時間規制が必要なのではありませんか。
この制度では、24時間労働を48日連続して行うことも法的に排除されません。しかも、すべて自ら選択したものとされ、過労死が自己責任にされてしまいます。実労働時間の把握が義務付けられていないため、労災認定させることが極めて困難になります。総理、高プロを導入して過労死をなくすことはできるのですか。
政府は、企業に健康管理時間を把握させ、一定時間を超えれば医師に面談させて健康を守ると説明します。加藤厚労大臣は、残業相当分が月100時間を超えれば医師が面談すると言いますが、過労死水準を超えてから医師の面談を受けても、労働者の命と健康を守ることはできません。しかも、上限規制がない下では、医師の面談後も残業させることが可能です。残業相当分が月200時間になっても違法とならないのではありませんか。
高プロ導入をどれだけの人が希望しているのか。政府は、12人からヒアリングをしたと答弁しました。高プロ導入の根拠が僅か12人の意見しかないというのは驚きです。
結局、この制度は、企業にとって実労働時間管理も残業代支払もなく、死ぬまで働かせても責任を問われない。過労死とサービス残業を合法化し、促進することにしかならないのではありませんか、はっきりお答えください。
過労死したNHK記者、佐戸未和さんの母、恵美子さんは、午前3時まで働き朝6時に出社、せめてインターバル規制があれば娘は死ななくて済んだと語っています。過労死をなくすというのであれば、連続11時間の休息時間、勤務間インターバル規制をなぜ法律に明記して義務付けないのですか。
ヨーロッパ諸国は、11時間の連続休息時間を既に法制化しています。この制度は、1日の労働時間を規制することにつながる大切な制度です。11時間という時間を明記して法制化すべきです。
政府は、同一労働同一賃金を実現すると言います。しかし、法案には同一労働同一賃金という文言がありません。なぜ法案に明記しないのですか。
また、法案によって均等待遇になるパート労働者と有期労働者はどのくらいになるのですか。
今回、雇用対策法の名称を変え、法律の目的に労働生産性の向上を明記し、国の施策に多様な就業形態の普及を追加しています。
1966年に制定された雇用対策法は、完全雇用の達成を国の政策の目標として宣明し、労働者の職業の安定と経済的、社会的地位の向上を図ることを目的としていることを明確にしました。また、不安定な雇用形態の是正を図るため、雇用形態の改善等を促進するために必要な施策を充実することを国の措置すべき施策として明記しました。当時の労働大臣は、雇用政策が他の政策の従属的な立場に置かれるということは間違っていると国会で答弁しています。
今回、なぜ異質な労働生産性の向上を法律の目的とするのですか。これでは単なる経済政策になってしまいます。なぜ雇用政策を変質させるのか、答弁を求めます。
日本政府も批准しているILO雇用政策条約は、憲法27条が保障する労働権を実現するための施策として、国が雇用対策を講じることを要請しています。この方向での法改正こそ必要です。
最後に、男性も女性も、正社員も非正規雇用労働者も、誰もが8時間働けば普通に暮らせる社会をつくることこそ国民が求める働き方改革であり、日本の経済と社会をまともに発展させる道であることを強く訴えて、質問を終わります。
安倍首相の答弁
山下議員にお答えをいたします。
私の言葉と面会要請についてお尋ねがありました。
行政をめぐる様々な問題や、この働き方改革を始めとする必要な政策等について、私の言葉で国民の皆様にご説明し、お伝えできるよう常に心掛けています。今後も一層努力してまいります。
過労死の悲劇を二度と繰り返さないという強い決意の下、罰則付きの時間外労働の上限を設けるなどを内容とする働き方改革関連法案を提出しております。
ご指摘の面会のご要請については、法案に対する政策的なご意見であることから、法案の担当省庁である、その内容、経緯等を熟知している厚生労働省において承らせていただくこととしたものであります。
労働時間の調査についてお尋ねがありました。
委員ご指摘の調査について、一度精査を行った後に更に訂正を行うこととなったことは遺憾であります。
しかし、厚生労働省において調査票の原票の確認等を行い、九千を超えるサンプルを再集計した結果、加藤厚生労働大臣が集計結果に大きな傾向の変化は見られないと答弁していると承知しております。ご指摘の平成27年の私の答弁の根拠となったデータについても同様であると聞いております。
また、労働政策審議会では、この調査ではなく、様々な資料を確認しながら現場の実情に通じた労使のご意見を踏まえて議論が行われ、おおむね妥当との答申が取りまとめられたところです。答弁の撤回や法案の差戻しの考えはありません。
時間外労働の上限規制についてお尋ねがありました。
時間外労働の上限規制は、あくまで原則として月45時間かつ年360時間です。
その上で、臨時的な特別の事情がある場合に該当すると労使が合意した場合に限り、上限は年720時間とし、その上限内において、単月では100時間未満、複数月の平均では80時間以内を限度とするものであります。
他方、単月100時間未満といった特例の時間外労働を安易に認めるということではなく、昨年3月に労使トップにより、月45時間、年360時間の原則的上限に近づける努力が重要とする旨の合意がなされました。政府としては、これを受けた指針を新たに定め、労使に対し、必要な助言、指導を行ってまいります。
なお、ご指摘のILO条約の批准については、国内法制との整合性についてなお検討すべき点があることから、慎重な検討が必要であると考えています。
高度プロフェッショナル制度の過労死についてお尋ねがありました。
高度プロフェッショナル制度は、時間ではなく成果で評価される働き方を自ら選択することができる、高い交渉力を有する高度専門職に限って、自律的な働き方を可能とする制度であり、成果主義をあおるとのご指摘は当たりません。
また、高度プロフェッショナル制度においても長時間労働を防止し健康を確保することは重要であり、在社時間等の把握、一定以上の休日の確保などを使用者に義務付けることとしています。
こうした措置を通じて、高度プロフェッショナル制度で働く方々の健康確保に遺漏なきを期してまいります。
なお、労災認定に当たっては、高度プロフェッショナル制度の方であっても、会社への入退館の記録や同僚への聞き取りなど、様々な方法により実態がどうであったかを調査し、認定を行っていくものと承知しております。
高度プロフェッショナル制度と長時間労働についてお尋ねがありました。
高度プロフェッショナル制度は、時間ではなく成果で評価される働き方を自ら選択することができる、高い交渉力を有する高度専門職に限って、自律的な働き方を可能とする制度です。
その対象となった方についても、長時間労働を防止し、健康を確保することは重要であり、在社時間等が一定以上になった場合には、事業者に対し、医師による面接指導を罰則付きで義務付けるとともに、その結果に基づいた医師の意見を踏まえ、職務内容の変更や在社時間等を短くするための措置等の実施を義務付けています。
これらの措置を通じて、高度プロフェッショナル制度で働く方々の健康確保に遺漏なきを期してまいります。
なお、使用者がご指摘のような極端に長時間働くよう業務命令を出すような場合は、法令の要件を満たさず、高度プロフェッショナル制度の適用は認められないこととなります。また、この場合には、法定労働時間に違反するとともに、割増し賃金の支払義務が発生し、罰則の対象にもなるものであります。
高度プロフェッショナル制度の導入根拠と過労死への懸念についてお尋ねがありました。
高プロ制度は、産業競争力会議で経済人や学識経験者から制度創設の意見があり、日本再興戦略において取りまとめられました。その後、労使が参加した労働政策審議会で審議を行い、取りまとめた建議に基づき法制化を行ったものであります。
具体的に対象者は、法律上、次の三つの要件を満たす場合に限定されています。第一に、年間の賃金が平均的な労働者に対して著しく高いこと、具体的には、年間平均給与額の3倍を相当程度上回る水準、現状では1,075円以上の方であること。第二に、専門性があり、通常の労働者と異なり、雇用契約の中で職務の記述が限定されていること、いわゆるジョブディスクリプションがあること。第三に、何より本人が制度を理解して個々に書面等により同意していること。
また、健康確保のため、在社時間等を把握した上で、インターバル措置、健康管理時間の上限措置、二週間連続の休日、臨時の健康診断のいずれかを使用者に義務付けることとしており、これらの措置を講じなければ制度の導入はできないこととしております。
さらに、連合からの私への要請を踏まえて、年間104日の休日確保の義務付けなど、健康確保措置を強化しております。これらの措置を通じて、高度プロフェッショナル制度で働く方々の健康確保に遺漏なきを期してまいります。
勤務間インターバルについてお尋ねがありました。
ご指摘の勤務間インターバルについては、日本では少数の企業が導入しているのみであり、まずは制度の普及促進が重要です。
そのため、今回の法案では、その導入を努力義務として規定することとしています。さらに、制度を導入する中小企業に対する助成金の活用や好事例の周知を通じて、労使の自主的な取組を推進し、普及を図ってまいります。
同一労働同一賃金についてお尋ねがありました。
今回政府が導入しようとしている同一労働同一賃金制は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を埋めるものであります。
今回の法案には、同一労働同一賃金を表すものとして、雇用形態による不合理な待遇差を禁止する規定を明記しており、この規定に基づき、不合理な待遇差がある場合には、その是正を求める労働者が裁判で争えることを保障しています。
現在、我が国においては、パートタイム労働者は1,600人程度、有期雇用労働者は1600人程度であり、これらの方々は、本法案により同一労働同一賃金の保護を受けることになります。
欧州諸国では既に同様の制度が施行されていますが、例えばドイツ、フランス、イギリスでは、パートタイム労働者の賃金水準はフルタイム労働者の70%台から80%台となっており、いかなる待遇差が不合理とされ、いかなる待遇差が合理的なものとして残るかは、産業構造の違いの影響などにより、国によって異なっています。
このため、本法案により、我が国においてパートタイム労働者と有期雇用労働者について、正規雇用労働者との待遇差がどの程度是正されるかをお答えすることは困難ですが、不合理な待遇差の解消を図ってまいります。
雇用対策法の改正についてお尋ねがありました。
労働力人口が減少していく中で我が国が持続的に成長していくためには、労働生産性の向上を通じた成長と分配の好循環を構築していくことが重要です。今回、雇用対策法の目的に加える労働生産性の向上は、この趣旨を明らかにしたものです。あわせて、一人ひとりの事情に応じた多様な働き方に対応するため、雇用の安定と職業生活の充実も同じく法の目的に明記をいたします。
これらを、長時間労働の是正、同一労働同一賃金の実現などの働き方改革によって推進し、雇用政策の目指す完全雇用の達成と経済社会の発展を図ることとしたものであります。