私は、日本共産党を代表して、国家戦略特区法案に反対の討論を行います。
法案の内容に入る前に、法案審議の民主的ルールを真っ向から否定した与党による本院と内閣委員会の運営について一言申し上げたい。
国家戦略特区法案は、安倍内閣の重要法案とされているにもかかわらず、公正で円満な運営を進めようとしていた前内閣委員長を数を頼んで解任した上に、委員長職権で委員会を開催し、参考人質疑も行わず、委員の十分な審議も保障しないまま、委員会に続いて本会議で採決を強行しようとしていることに対し、まず強く抗議をいたします。
内閣委員会における本法案の審議時間は、衆議院の3分の1にも満たない僅か7時間でしかありません。そのような状態で会期末を迎えた以上、会期制の原則にのっとるなら、本法案は、本来、審議未了、廃案とすべきものであります。
以下、国家戦略特区法案に反対する理由を具体的に述べます。
第一の理由は、本法案が、弱肉強食の市場原理主義に基づく規制緩和を、特区地域の指定も含め、国家の意思として上から一方的に押し付け、やがて全国に拡大するものであり、そのために総理大臣の下に新たな規制緩和メニューを次々と加えることができるシステムを創設するものだからであります。
初めに規制緩和ありきで、規制緩和によって安心、安全が脅かされる側の声は事前に聞かれることなく、規制緩和後の悪影響も検証される仕組みがない本法案は、国民の中に一層の貧困と格差をもたらすものとならざるを得ません。
反対理由の第二は、特区地域の指定、特区計画の認定、雇用ガイドラインの検討などを担うこととなる要の組織、国家戦略特区諮問会議に、総理、官房長官などとともに、解雇特区や雇用の規制緩和を強力に主張している竹中平蔵氏、今や派遣会社会長でもある同氏を始め、財界人が民間議員として起用されようとしているからであります。
私の本会議質問でも、菅官房長官は竹中氏の起用について否定せず、仮に議員が直接の利害関係を有すると考えられる議題が上がる場合には、当該議員が審議に参加しないようにできる仕組みとしたいと、根拠も担保もなく答弁されましたが、法人税の優遇や労働法制の規制緩和などが議題となるたびに外すことなどできるはずがありません。
人間社会は、使用者と労働者が対等の立場にない雇用関係において、労働者保護のための労働法の必要性を自覚し、長年の努力によって契約自由の社会を修正してきました。それが近代社会の到達点であります。事もあろうに、労働者の搾取が自由にまかり通っていた時代に逆戻りすることを望むかのような、むき出しの規制緩和論者を諮問会議のメンバーに据えるなど到底許されるものではありません。
反対理由の第三は、今や若者の、そして女性の二人に一人が正社員になれず、不安定雇用と低賃金に苦しんでいる中、求められているのは、安心して働ける雇用のルールの確立、正社員化と均等待遇、中小企業への支援と併せての最低賃金の大幅引上げなどであるにもかかわらず、この法案はそれと逆行する労働規制の緩和の道筋を付け、一層非正規化を進め、格差社会を広げるものだからであります。
この間、国家戦略特区ワーキンググループでは、労使の契約でいつでも解雇できるようにすること、労働時間の上限規制の緩和をすることなど、解雇特区、過労死特区ともいうべきものが検討されてきました。こうした企ては国民の批判を前にトーンダウンしたものの、新たに有期労働の無期転換申込みを現行五年から十年に延長することが狙われており、何年働いても非正規雇用、正社員への道がますます遠くされようとしていることは重大です。
これだけにとどまらず、法案では、医療、農業、教育など、様々な分野で、国民の命と安全、暮らしや営業にかかわる規制緩和が首相のトップダウンで次々と持ち込まれようとしております。日米の財界の要求を優先し、国民の命や暮らし、雇用や中小企業を守るルールを壊すことなどあってはなりません。
以上、本法案に反対する理由を述べました。
最後に、この法案にかかわらず、国会の中の多数で悪法を強行することはできても、国民の中に息づく民主主義の力まで押しとどめることはできません。国民は必ず政治の横暴を自ら乗り越え、新しい時代を切り開くことになることは間違いない。その確信を述べて、討論を終わります。