放送法4条の撤廃の動きを批判。「戦争の痛苦の反省を経て生まれた放送法の根本精神」と強調 
2018年4月17日 参議院総務委員会

山下よしき 日本共産党の山下芳生です。

 先月、首相方針とされる放送事業見直しの内容が報じられ、波紋が広がっております。とりわけ、放送番組が政治的に公平であること、報道は事実を曲げないですることなどを定めた放送法4条の撤廃について、厳しい批判と不安の声が上がっております。

 メディア論が専門の上智大学音好宏教授は、安倍首相側がこの時期に放送改革を言い出したこと自体がメディアに対する牽制の意味合いを持っているのは間違いないと述べておられます。そのとおりだと思います。公文書の改ざん、隠蔽、捏造などで自ら招いた国民の信頼低下をメディアのせいにして牽制するなど、言語道断と言わなければなりません。放送業界は、首相を応援してくれる番組を期待しているのではないか、政権のおごりだとの声が上がるなど、そろって警戒を強めております。多くの国民・視聴者が不安に感じているのも、放送が今以上に政府寄りとなるのではないかということであります。

 そこで、野田大臣にうかがいますが、放送法4条撤廃の動きに対するこうした批判と不安について、所管大臣としてどう認識されていますか。

野田聖子 総務大臣 お答えいたします。

 規制改革推進会議における放送法4条を含む放送事業の見直しに関する検討については、これまで報道のみで承知していたところでありますが、昨日の会議におきまして見直しに関する具体的な議論や指示はなかったと私は承知しています。

 特に、報道で取り上げられている放送法第4条について、一般論ですが、放送事業者は4条を含めた放送法の枠組みの中で、自主自律によって放送番組を編集することにより重要な社会的役割を果たしてきたものと、何度も申し上げてきましたが、認識しています。

 総務省としては、昨年、閣議決定をされました新しい経済政策パッケージ、これを受けて、放送用の周波数の有効活用について有識者懇談会を設けて検討を行っているところですけれども、今後、規制改革推進会議の議論についても協力はしてまいります。

山下よしき 放送法には、4条のみならず、第1条「目的」にも、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること、あるいは放送が健全な民主主義の発達に資するようにすることなどの原則が明記されております。放送の不偏不党、真実及び自律の保障、そして政治的公平、これらが放送法に書き込まれたのはなぜか。そこには戦前の放送が犯した大きな過ちへの痛苦の反省があります。そのことを再確認するために、今日は戦前の放送の実態がよく分かる文献を参考資料として配付いたしました。

 まず、忘れてならないのが、戦前の放送が国民を戦争に駆り立てる道具になってしまったという事実であります。資料の1ページ目から6ページ目まで掲載しているのが日本放送協会編の「日本放送史」という資料です。昭和26年、1951年発行の文献であります。

 少し引用、紹介したいと思いますが、「昭和16年(1941年)12月8日、国民は午前7時の臨時ニュースで、初めて米英との開戦を知った。」「この日から、放送は政府と軍の発表機関に堕し、情報局の放送指導は凡ゆる面において強化されたのである。放送番組の編成会議は、戦争勃発直後は毎日、暫くして隔日、やがて一週間に1回宛開かれたが、すべての審議は、情報局の放送担当官の出席と、その指導の下に行われた。軍の政府は、情報局をその発表機関としたのであるが、放送指導の理論がナチス・ドイツの放送政策をそのまま取り入れた点に、大きな特徴があった。」「報道は、その形式内容ともに、全くの戦時放送の形態を取るに至っている。ニュースの配列は、戦況と宮廷関係を第一とし、次いで国策、社会、外電という風であった。また国民に感激を与え、ニュースを効果あらしめるため、戦果放送の場合は、陸軍の行進曲或いは海軍マーチを使用する方法を取った。やがて「敵は幾万ありとても」、「海行かば」が、海軍将兵の悲壮な犠牲を彩るようになった。」などであります。

 最後に、次のページも一つ紹介しておきたいと思いますが、「戦争中の重要種目であったニュースや講演を通じて記録されなければならないことは、第一に戦況の一方的押しつけと、必勝の信念、八紘一宇の合言葉などの氾濫である。指導者は国民に対し知らしむべからず、倚らしむべしの態度を取って来た。国民は官製の宣伝に踊らされただけであり、正しい意味での報道は行われなかった。」ということであります。

 これは、戦前の放送の実態をよく知る当事者が戦後その反省の決意を込めて書かれた文章だと、その思いがにじみ出てくるなというふうに私は感じましたが、大臣にうかがいますが、戦前の放送が国民を戦争に駆り立てる道具になってしまったという事実について、大臣はどのように認識をされていますか。

野田 総務相 お答えいたします。

 戦前の放送を規律していた無線電信法において放送は政府の監督下に置かれており、同法に基づく許可を受けた一般社団法人日本放送協会も、特に戦時中は政府の統制下に置かれたものと承知しております。

 放送が国民を戦争に駆り立てる道具として利用されることは、当然あってはならないことだと思います。戦前のこうした経緯も踏まえて、戦後、表現の自由を保障する新憲法の下で放送法が制定されることになったということを承知しているところです。

山下よしき あってはならないということでありました、そのとおりだと思いますが。

 資料七ページ目をご覧いただきたいと思います。左側に、竹山昭子先生が書かれた「戦争と放送」の「序」を引用しておきました。竹山先生は、東京放送、TBS勤務の後、昭和女子大学で教鞭を執られた方であります。

 ここには、「12月8日の開戦の日、情報局第二部第三課長の宮本吉夫は、「ラジオの前にお集り下さい」という放送を行っている。「いよいよその時が来ました。国民総進軍のときが来ました。政府と国民ががっちりと一つになり、一億の国民が互に手をとり、互に助け合って進まなければなりません。政府は放送によりまして国民の方々に対し、国民の赴くところ、国民の進むべきところを、はっきりとお伝え致します。国民の方々はどうぞラジオの前にお集り下さい」と、政府はラジオを通じて国の方針を伝達すると述べている。ここでは当然のことのように、「放送は政府の情報機関である」という認識の上に立って発言していることがみとめられる。」。

 先生はその前に、「政府は、ラジオの持つ広範性、同時性、そして直接性、この直接性というのは政府の意向がじかに効果的に伝えられるという直接性だが、そのことをよく知っていた」ということを述べておられます。

 もう一つ紹介しておきたいと思いますが、資料6ページの、前のページになりますが、左側には、この竹山先生が研究されて、先ほどちょっと「日本放送史」にも触れられていました、ナチス・ドイツの放送変革を参考にして、その方針の下に戦前の日本放送協会の機構改革が行われたと、その類似点について研究して述べておられます。これは非常に重要な資料だと思いますが、これはもう紹介だけしておきたいと思います。

 私が重大だと思ったのは、もう一つ忘れてならないと思ったのは、戦前はうその放送が平気でまかり通っていたという、その怖さであります。

 また資料2ページ目に戻っていただきたいのですが、先ほどの黒線の後半に、「第二に、諸外国の言説の勝手な歪曲である。厳重な検閲を経て発表される外国電報は、国民の前に提示される時は、都合の良い部分だけが抽出され、勝手な歪曲を行い、宣伝の用に供されていた。アメリカの対日放送の聴取を絶対に許さなかったのは、国民の目と耳を鎖国化して、軍官に都合のよい宣伝のみを行おうとする意図にほかならなかった。」ということであります。

 それから、同じく資料7ページ、またあちこち行って申し訳ないですが、7ページには「放送史の暗い四年間」と題した文章を載せておきました。書いたのは、開戦時NHKの企画部副部長だった崎山正毅さんであります。

 「こわい、放送のウソ」。「そのうちで、一番気になるのは、やはり、放送のうそということです。戦争のはじめはともかく、半ばごろから、政府や大本営の発表に、戦果をはじめ、アメリカ、イギリスのこと、わが国のことについて、うその放送が多くなったこと」でありますということを、これはもう開戦時の日本放送協会の企画部副部長だった方が1990年に書かれた本ですけれども、こういうことを述べておられます。

 大臣にうかがいたいんですが、戦前の放送が、政府が言うがままの情報を流しただけにとどまらないで、うその情報を流した。先ほど、大臣がフェイクニュースという言葉を引用されていましたが、まさに戦前の放送はフェイクニュースだらけだった、この点について大臣の認識うかがいたいと思います。

野田 総務相 お答えいたします。

 報道機関である放送事業者が真実に基づかない放送を行うことは、当然あってはならないことと思います。

 戦後、新憲法の下で放送法を制定するに当たり、表現の自由と公共の福祉のバランスを確保するため、放送法第4条が規定する番組準則において、「報道は事実をまげないですること。」、いわゆる真実の報道の規定が定められたものと、あると認識しているところです。

山下よしき 大事な点を確認したと思います。

 私、いろんな資料を読んでいまして、さらに戦前の放送の実態を振り返って深刻だと感じたのは、国民を戦争に駆り立てる道具としての役割を担わされたというだけではなくて、放送事業者が自ら進んで買って出たという事実であります。

 一枚物として追加配付した資料に、1942年1月1日、当時の日本放送協会会長小森七郎による「聴取者の皆様へ」と題する放送が載った文献を載せておきました。左側、かぎ括弧の中ですが、「昨年12月8日、我が国が遂に多年の宿敵、米英に対し戈を執って立つに及びまするや、我が放送事業も亦即時之に対応する新たなる体制をとるに至ったのであります。──番組内容は悉く戦争目的の達成に資するが如きもののみと致しました。──私共全国五千の職員はこの重大なる使命に感激しつつ、愈々以て職域奉公の誓を固くし、全職員一丸となって懸命の努力を致しておるのであります」と。

 まあ本当にこれを聞いて、こういう形で、もうまさに放送事業者が自ら戦争に国民を動員する役割を進んで買って出たと。職員全員一丸となってその役割を担うんだという、そういう残念ながら決意表明になってしまっているわけですが、野田大臣、これも私は戦前の放送の痛苦の反省点として記憶にとどめておかなければならない問題だと思います。放送事業者が自ら進んでこういう役割を買って出た、この点、大臣の認識うかがいたいと思います。

野田 総務相 お答えいたします。

 繰り返しになるわけですが、ゆえに、戦後、新憲法の下で、表現の自由と公共の福祉のバランスを確保するために、第4条において真実の報道の規定が定められたものであり、報道機関である放送事業者が真実に基づかない放送を行うことは当然あってはならないということだと思います。

山下よしき 先ほどから割とあっさりとお答えいただいているので、少し確認したいんですけれども、真実を報道しないことがあってはならない、うそをついてはならない、そして政府の言いなりになってはならないということを、まあ当たり前のことのように今大臣からはご答弁あったんですが、私は、そのことによって、そういう放送によって国民が戦争に動員されてしまった、その結果を私は今の放送事業者の共通の痛苦の反省、教訓にする必要があると思っているんですが、戦争に動員する役割を自ら買って出たと、その点について、大臣のお言葉でもう一度述べていただければと思います。

野田 総務相 お答えいたします。

 当然のことでありますけれども、放送が国民を戦争に駆り立てるようなことはあってはならない、そう思っております。

 ちょっと今日は体調悪くて済みません。

山下よしき かつてあったことを深く反省する必要があるという点はいかがでしょうか。

野田 総務相 お答えいたします。

 そのとおりであります。

山下よしき ここは本当に実態を踏まえて深く認識しないといけないと思っているところです。その反省の上に立って戦後の放送は出発したと思います。

 資料8枚目、最後のところですけれども、これは、私はその痛苦の反省がにじみ出る決意表明として感激的に読みました。1946年4月30日、日本放送協会会長高野岩三郎の就任あいさつであります。

 黒線引いているところですが、「太平洋戦争中のやうに、専ら国家権力に駆使され、所謂国家目的のために利用されることは、厳にこれを慎しみ、権力に屈せず、ひたすら大衆の為に奉仕することを確守すべきであります。」。傍線引っ張っていないんですが、その下、「広範な国民大衆と共にあるためには、一党一派に偏せず、徹頭徹尾不偏不党の態度を固く守ることの必要は、申すまでもありません。ラジオとしては、民主主義的であり、進歩的であり、大衆的であること以外には、何等特定の政治的意見を固執してはなりません。 勤労者大衆と共に苦しみ、共に楽しみ、勤労者大衆と共に新日本建設へ奮ひ立つこと、ここにラジオの第一使命があると存じます。」と。

 やはり、戦前の放送が担わされた、あるいは担った痛苦の反省から、こういう新たな放送の出発点としての決意がほとばしっていると、並々ならぬ決意を感じたわけですが、こういう出発点を日本の放送は持っていると、これは忘れてはならないと思いますが、この点も大臣の感想をうかがいたいと思います。

野田 総務相 お答えいたします。

 おっしゃるとおり、戦後、表現の自由をしっかり保障する新憲法の下で、国民の知る権利を充足するために放送法が制定されました。放送事業者の自主自律を旨とする放送法の枠組みの中に、放送番組を編集することによってしっかりとこれまで重要な社会的役割を果たしてきたと認識しているところであります。

山下よしき 肉声が聞きたいんですね。私は、高野岩三郎さんのこの決意は、相当ほとばしっていると思いますよ、戦前の反省が。それにじみ出ていると思いますよ。そのことを大臣の肉声で聞きたいんですよ。どうでしょうか。

野田 総務相 今日はたくさんの資料をいただきまして、なかなかふだん触れることがない戦争中の放送のありよう、そして戦後の反省を踏まえて、日本放送協会の責任者の皆さんが今委員ご指摘のような表明を至ったということについては、非常にたくさんのことを学ばせていただいたと思います。

 確かに、先ほどちょっと注意されましたけれども、そういういろいろ苦しい歴史の中にあって、今そういう我々の放送の、放送法4条の源があるということを改めてやっぱりかみしめて、しっかり取り組んでいきたいなということを感じているところであります。よろしゅうございますか。

山下よしき 大変伝わってまいりました。大変伝わってまいりました。それがやっぱり私は放送法を所管する大臣として大事だと思うんです。

 やはり1条、4条を含む放送法を貫く根本精神は、国家権力からの独立、自律を保障し、表現の自由を守ることにあります。それを投げ捨て、踏みにじるような放送法改変には、私は、立場を超えた共同でこれは阻止しなければならないということを述べて、終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

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日本共産党参議院議員。香川県善通寺市出身。県立善通寺第一高校、鳥取大学農学部農業工学科卒業。市民生協職員、民主青年同盟北河内地区委員長・大阪府副委員長。95年大阪府選挙区から参議院議員初当選。13年参議院議員選挙で比例区に立候補3期目当選。14年1月より党書記局長。2016年4月より党副委員長に就任。2019年7月参議院議員4期目に。参議院環境委員会に所属。日本共産党副委員長・筆頭(2020年1月から)、党参議院議員団長。