公務員の労働基本権と全体の奉仕者性 
【議事録】参議院内閣委員会参考人質疑

○山下よしき 日本共産党の山下芳生です。お三方、ありがとうございます。
 まず、晴山先生に質問させていただきます。
 先生のレジュメの政と官の役割分担のところで、これは大変深い大事な御提起だと感じました。議院内閣制の下では公務員は最終的には内閣に従わなければならない、しかし日常の職務遂行において全体の奉仕者としての公務員の役割の発揮が大事なんだと、上司に盲目的に従うだけでは駄目なんだという御趣旨のことを言われました。
 こういう立場が大事なんだということの理由といいますか、理論的な背景、それから同時に、実際問題、例えばこんな場面でこういうことが大事なんだという具体例、もしおありでしたら教えていただきたいと思います。

○晴山一穂参考人(専修大学法科大学院教授) やはり公務員が、アメリカの歴史をちょっと御紹介したんですけれども、100年以上の歴史の積み上げの中で公務員が独自に担っている役割というのは、これは各国共通してあって、政治家の役割とは違うわけですね。政治家、言うことをそのままやることが公務員の独自の役割かというと、そうではなくて、最終的にはもちろん国民主権ですので選挙で選ばれた内閣に従うと、これは当然ですし、地方でいえば首長に従うというのは、これは当然民主主義からいってそうなんですけれども、それを前提とした上で、公務員の独自の役割、政治家にはできない独自の役割というのは、やっぱり全体の奉仕者として公務というものをきちっと押さえて、その特質を専門家の立場から反映させていく、上司なりに対してそれを意見を述べて、こうあるべきだということのやり取りをする中で、最終的には内閣が政策を決定していく、これはごく当然の公務員の役割だと思うんですね。
 これは、戦前のあの官吏服務紀律でも同様で、あのときは特権的な官吏ではあったわけですが、政治家と違って、官吏はやっぱり公務の担い手として、上司の職務命令に意見を申し出ることを得というのが官吏服務紀律にもありました。戦後、国公法を作るときもごく当然のこととしてそれを入れて、最初にできた国家公務員法は、職員は上司の職務上の命令に対して意見を述べることができるという規定を盛り込んだんですね。
 ところが、それが1948年のあのスト権のときの国公法改正で一緒にそこがなくなってしまっています。どうしてなくなったかとちょっと調べてもはっきりしないんですけれども、それでも人事院の今の解説では、なくなってはいるけれども、職務命令に意見を述べる権利というのはこれは当然の権利で、公務員として、規定にはないけれども、当然のことだというのはそのままありますので。
 私は、これはもちろん最終的に内閣に従わなきゃいけない、これはもう当然の前提ですけれども、そこに行く過程で、最大限、やっぱり公務の担い手としての公務員の独自の役割というのをいかに発揮できるのか、職務命令に意見を述べる権利だとかそういうこと、制度化も含めて今後の大きな検討課題だというふうに考えております。

○山下よしき 続いて、晴山先生に。
 幹部職員の人事管理の一元化についての問題点の御指摘がありました。私も、正確で客観的な適格性審査が果たして本当にできるのかと。内閣総理大臣あるいは官房長官が、幹部職員、現職の方で600人、それから候補者の方も含めますので相当な数になります。そういう適格性審査が果たしてできるのかという思いがありまして、なかなか難しいんじゃないかと。
 そうしますと、結局、幹部候補の皆さん、あるいは幹部候補になろうとされている皆さんは、行政の専門性よりも時の政権の意向をおもんぱかって、全体の奉仕者とは逆の作用をもたらすことになりはしないか。ヒラメ公務員というような方々が、この幹部人事管理の一元化によってより一層広がることが危惧されないか、そう思うんですが、その辺りいかがでしょうか。

○晴山参考人 そういう危惧も出てくるかというふうに私は思います。ただ、内閣としては、内閣が決めた方針に従うことが国民全体のためになるんだと、議院内閣制ではそうなんだということになるかと思いますので、結局、そこでは本当に公務の特質ということもよく踏まえた上で、どういう人材がふさわしいのかということを具体的な基準に基づいてチェックできる仕組み、これがやっぱり必要だろうというふうに思います。
 また第三者機関の話になるんですけれども、その点をきっちりさせた上で、一定程度内閣の意向を反映させてということはあり得るかというふうに私は思いますけれども、そこのところが非常にはっきりしない。標準職務遂行能力というのも、何百ページというのが今あるんですけれども、それを見ても、例えば倫理という項目だと非常に抽象的な、全体視野にわたって見れることとか、そういうふうな規定になっていまして、どうでも取れそうな抽象的な規定なわけです。果たして数百人という対象者でそういう基準でやっていけるのか、もっと具体的な基準が当然必要になってくると思うんですけれども、じゃ、それを誰がどうやって作るのかというふうなことがはっきりしないで一元管理だけ決めてしまうということになると、非常にやっぱり混乱するんじゃないかなというふうに思います。

○山下よしき 牧原参考人も同じ趣旨なんですが、幹部職員人事の一元化について、情実人事をどう防ぐかという問題意識を御披露されましたけれども、今の同じ質問なんですが、いかがでしょうか。

○牧原出参考人(東京大学先端科学技術研究センター教授) 非常に候補者が多数いる中で、それを1件1件、適格性を審査するとした場合に、やはり各候補者についてのその情報が一番あるところは現段階では各省でしょうから、そこでの情報を十分よく内閣でそしゃくしながら人事を進めるというのが当面のところであろうと思われます。
 しかし、それが徐々に進んでいった先にどうなるかということは、ここはかなりいろいろなケースが考えられて、内閣あるいは政府の側で各省とは別に人事情報が蓄積されることによって、今度はまた新しい人事の在り方というものが模索されていくということはあり得ると思いますけれども、しかし当面は、一足飛びにそこに行くよりは、既存の人事情報をきちんとどこにあるかを把握しながら慎重に人事を進めていくということが肝要であろうと思われます。

○山下よしき 再び晴山先生に伺います。
 幹部職員の降任の弾力化について問題意識をお持ちでした。私も、この降任というものが更に拡大されると、この間担当大臣に聞きましたら、その人に問題点があるわけではないが別の人に替えた降任ということもあり得るんだなどなど、かなり拡大されると。そうすると、一層そういう全体の奉仕者性との相矛盾というものが促進されるんではないかという、この降任の拡大という点についての御心配の点、もう少し詳しく述べていただけますでしょうか。

○晴山参考人 ここが国公法の身分保障の要を成すところで、分限免職あるいは降任するための法定事項としては四つに限定をしているわけですね。四つ以外の理由では免職、降任してはならないというのが身分保障の要ということになるわけです。
 ところが、今度、幹部職員について見ますと、そこの条項に該当しなくても三つの条件に合えば降任できるということになっていますので、これは幹部職員に差し当たり限定されているというところなわけですけれども、これまでの国公法の基本原則からすると、幹部職員に限定していても、そこが、つまり法定でこれ以外では絶対降任してはならないという身分保障の原則規定が該当しなくてもできるというふうな規定をするということは、非常にやはり身分保障の一角を崩すことになる。幹部だからということで果たしてこれは済むんだろうか、場合によっては、それが管理職員に将来的に拡大すると一体どういうことになるんだろうかというふうなことがちょっと危惧しているものですから、ここは非常に国公法の今の在り方を崩すものというふうに危惧しております。

○山下よしき 最後に、労働基本権問題について清水参考人と晴山参考人にも質問したいと思います。
 私は、公務員の労働基本権と全体の奉仕者性というのはかなり深い関係があるのではないかと考えております。自らの基本的人権が不当に制約されているまま国民の権利、人権に敏感であれるのかという問題意識があるからであります。愛情たっぷりに育てられた子供は愛情を知るとも言いますけれども、やはり人間が人たるに値する暮らしを営もうと思ったら、労働者の場合は圧倒的な力を持っている使用者に対して労働基本権をしっかりと保障されることによって対等に対峙することができる。その基本権、基本的人権が制約されたまま国民全体の奉仕者として国民の権利を守ることができるのかという観点からも、私は労働基本権の回復というのは一刻も早くなされるべきではないかと考えるんですが、清水参考人と晴山参考人の御意見、伺いたいと思います。

○清水敏参考人(早稲田大学社会科学総合学術院教授・同大学副総長・常任理事) 労働基本権というものが、いかなる根拠で憲法上の労働者の基本権として保障されているのかということに関わる御質問かと思います。
 確かに、今御指摘のような側面はあろうかと思います。ただ、労働基本権といっても様々ですが、今日お話しした団体交渉システムとの関係でいうと、基本的には保障しながらも、議会の権限との調整をどうするかという部分は残るであろうと。
 同じように、将来的に仮に、労働基本権の一部には争議権もありますので、争議権の問題を考えるときにも、やはり国民生活との調整を、業務が停廃したときの国民生活との調整というものをどう具体的に図っていくかというようなことはやはり考えなくてはいけない。まさに国民の基本的人権を守る、それに非常に敏感な公務員であるからこそ自分たちの権利の行使に当たってもその点を十分考える。権利の行使によって国民にどういう影響が出てくるかということ、これを考える必要があるわけで、その限りで様々な制約がそこに生ずるということは、これはそれなりにリーズナブルであろうというふうに考えております。ちょっと抽象的ですが。

○晴山参考人 私も基本的に同じ考えなんですが、まず前提として、公務員も憲法28条の勤労者に含まれるというところから、労働三権、労働基本権が公務員にも保障されているということになっていて、これは最高裁でも一貫して認めているところなわけですね。認めているんだけれども、現行法による制約は合憲だというのが今の最高裁の考え方なんですが。
 私は、公務員も労働者なんだと、労働基本権を持っているんだというそこのところが一番大事で、その上で、公務の特質等から様々な制約がこれ出てきます。フランスでも協約締結権がないというのもその一つですし、いろいろ出て、民間と同じようにいかないのはそのとおりなんですが、一番基本のところで、公務員も憲法上の権利として労働基本権を持っているということが大事だというふうに思っております。

○山下よしき ありがとうございました。

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日本共産党参議院議員。香川県善通寺市出身。県立善通寺第一高校、鳥取大学農学部農業工学科卒業。市民生協職員、民主青年同盟北河内地区委員長・大阪府副委員長。95年大阪府選挙区から参議院議員初当選。13年参議院議員選挙で比例区に立候補3期目当選。14年1月より党書記局長。2016年4月より党副委員長に就任。2019年7月参議院議員4期目に。参議院環境委員会に所属。日本共産党副委員長・筆頭(2020年1月から)、党参議院議員団長。