米国のIS空爆支援要請 官房長官、断ると明言せず 
2015年12月10日 参議院内閣委員会

山下よしき 日本共産党の山下芳生です。おはようございます。
 今日は、テロ対策等について、まず官房長官に質問をいたします。
 パリで同時テロ事件が起こりました。犠牲者となられた方々に心から哀悼の意を表したいと思います。
 言うまでもなく、いかなる理由があろうともテロは絶対に許されない犯罪行為でありますから、強い憤りを持って糾弾したいと思います。
 残念ながら、テロが頻発する時代となっております。どうすれば解決への道が開かれるのか。まず考えたいのは、戦争でテロはなくせるのかという問題であります。
 政府にお尋ねしますが、2001年9・11テロ事件の後、米国はアフガニスタンへの報復戦争を開始しましたが、その前と後で世界でのテロによる死者数、それから発生件数、どうなっているでしょうか。

下川外務大臣官房審議官 お答え申し上げます。
 アメリカ国務省が国別テロリズム報告書において引用しておりますメリーランド大学のテロ及びテロ対応研究コンソーシアムという組織が作成しますデータベースによりますれば、2000年の全世界のテロ事件の発生件数は1814件、死者数は4,422名でございます。これに対しまして、2014年の全世界のテロ事件の発生件数は1件、死者数は43,512名となっていると承知しております。

山下よしき 今、数字が紹介されました。
 別の資料も一つ紹介したいと思います。11月に発表されたグローバル・テロリズム・インデックス2015、これによりますと、2000年に世界でテロによって亡くなった方が3329人、2014年には3人と。どの資料を見ても、十倍にテロの犠牲者がこの間増えているということなんです。対テロ戦争は、テロを根絶するどころか、その温床を広げる結果になったということも言えると思います。
 さらに、2003年のイラク戦争は泥沼の内戦をつくり出しました。このアフガン戦争、イラク戦争、これらの戦争が引き起こした言わば混乱の中からあのモンスターのようなテロ組織が生まれ、勢力を拡大した。最近、戦争の当事者でもあるイギリスのブレア首相は、2003年のイラク侵攻が過激派組織IS台頭を招く根本原因だったという見方には一片の真実があると、こう述べております。戦争でテロはなくせない、テロと戦争の悪循環をもたらし世界中にテロを拡散させる、これが私はアフガン戦争、イラク戦争で開始された対テロ戦争の深刻な結果であり、国際社会全体が教訓とすべきだと考えます。
 そこで、じゃ何が必要かということですが、私は、国際社会が一致結束して四つの対策を取ることが必要だと考えております。
 その点について官房長官の認識を後で伺いたいと思いますが、まず第一は、国連安保理決議に基づいて、テロ組織への資金供給を遮断すること、テロリストの国際移動を阻止すること、テロリストの武器入手を防止することなど、テロを直接抑える対策を国際社会が協力、一致してやること。
 第二は、貧困や政治的あるいは宗教的差別など、テロの土壌となっている問題をなくしていく努力を行うこと。今朝もNHKのニュースを見ておりますと、フランスの著名な政治学者の方が、なぜフランスでああいうテロが起こってしまったのかと、興味深い研究成果を発表しておりました。要するに、北アフリカからフランスに移民をされた一世の方々の疎外感というのは三割程度、しかし、二世、三世、今の若い人たちの疎外感が75%、ISはそこに付け込んでテロリストを養成していると。ですから、貧困や政治的、宗教的差別、テロの土壌となっている問題をどうやってなくしていくのかというのがやはり根本的な解決にとって第二に大事ではないかと思います。
 第三に、シリアとイラクの内戦、混乱が実際はもう起こってしまっているわけですが、平和と安定を図るために政治的、外交的努力を、これも国際社会が一致して行うことも大事じゃないか。
 そして第四に、シリアの人口の今半分以上が難民になっていると言われております。難民として苦しんでいる人々の人権を守り抜くための国際的な支援を抜本的に強めると、これも大事ではないかと思います。
 この四つの方向で国際社会が一致結束して対策を取ることが重要だと考えますが、官房長官の御認識、伺いたいと思います。

菅義偉官房長官 今委員から御指摘のありました四点について、テロ防止のために私も極めて重要な点だというふうに思っております。
 現に我が国におきましてでありますけれども、安保理決議1267あるいは2178、これに基づいてテロリストの資産凍結だとかあるいは外国人テロ戦闘員の渡航の防止、こうしたものに政府としては全力で取り組んでおるところでありますし、また、貧困や差別を削減し、テロの根底にある暴力的過激主義を生み出さない社会を構築するための努力もここはする必要があると思いますし、現に政府としても取り組んでいます。
 また、シリア情勢あるいはイラクでありますけれども、シリアにつきましては、日本は国際社会と緊密に連携しながら、保健衛生、教育、食糧分野、こうしたことを中心に人道的支援を行っているところでありまして、いずれにしろ、日本の強みを生かして可能な支援、シリアに行っております。また、イラクでありますけれども、国内避難民などに対する人道支援、さらに人材開発などの技術協力や円借款を通じたインフラの整備など、ここにおきましても日本の特色を生かしながら地域づくりや国づくりを支援させていただいています。
 また、戦後最大の難民でありますけれども、ここについては、人道支援だけでなくて難民を受け入れる国への支援、ここも必要だというふうに思っておりますので、我が国としては、人道支援と開発支援、こうしたものの連携を重視をし、総理もさきの国連においてこうしたことを説明をさせていただいた次第であります。

山下よしき 四点については官房長官とも認識が共有されたと思いますし、その方向で日本政府が努力するとともに、国際社会が一致結束した対策を取ることが大事だと思います。
 この対国際テロに関わって、一つ私、大変懸念する問題がございます。それは、さきの国会で強行された安保法制、戦争法との関連であります。
 ISに対する空爆への軍事支援という点でありますが、安倍政権は、そういう政策は取らないとしつつ、法律的には可能だということを繰り返し述べておられます。例えば、今年の1月25日のNHKの番組で、これはまだ安保法制ができる前ですけれども、安倍首相は、イスラム国に対する空爆を行っている米軍中心の有志連合など国連決議に基づかない軍事作戦に対し後方支援をしないのは政策判断だとしつつ、憲法上は可能だということを明言されました。これは非常に大きなニュースになりました。
 その後、安保法制の審議のさなかに、やはりISILへの、あるいはISへの空爆等への後方支援の可能性についてかなり頻繁に質疑が交わされました。例えば、これは中谷防衛大臣が6月1日、衆議院の安保特でこう述べております。法律、国際平和支援法に定められました、国際社会とか国連決議ですよね、それに基づいて判断するということで、法律的にはあり得るということでございますと。条件が整えばISへの空爆等に対する軍事支援もあり得るということを中谷防衛大臣は答弁して、そしてその法律が与党の多数によって強行されたわけです。
 そうなりますと、アメリカから、ISに対する空爆を有志連合を引き連れてやっていますが、その米国から日本もそれに対する支援をしてほしいという要請があった場合に断れないんじゃないですか、官房長官。

菅官房長官 この点については、さきの国会で政府から累次にわたって答弁をさせていただいているものであります。
 政府としては、政策判断として、ISILに対する軍事作戦への後方支援を行うことは全く考えておりません。我が国としては、今後とも、難民、国内避難民に対する食糧・人道支援など、従来から我が国が行っている人道支援を拡充をして、非軍事分野において国際社会における我が国の責任を毅然として果たしていく考えでありますので、そこについては我が国の考え方は全く変わっておりません。
 そして、平和安全法制、戦争法案でありません、あくまでも国民の命と平和を守るための国際社会の平和と安全にこれまで以上に貢献するものでありまして、国際法上完全に合法で、かつ正当性のあるものであって、憲法の制約の下、諸外国と比較をしても極めて抑制的なものであります。

山下よしき 我が国としては全く考えておりませんと、ISへの空爆への軍事支援についてですね。しかし、私が聞いたのは、アメリカから要請があったときに断れるのかという設問なんですよ。
 去年の8月に、7月1日の閣議決定の後、アメリカからそういう支援の要請があったと報じられております。そして、それに対して政府は、まだ法的整備が整っていないからそれはできませんとして断ったと報じられております。これが事実かどうかは分かりません、報道ですから。
 しかし、仮にそれが事実とすれば、法律がないからISへの空爆に対する軍事支援を日本政府はできませんと言って断った。今度、それを可能にする、法的には可能だと中谷大臣言っているわけですから、その法律が実際できたわけですね。この下でアメリカからISへの空爆に対する軍事支援への要請があった場合に断れますか、官房長官。

菅官房長官 おかげさまで、さきの国会で、私ども与党はもちろんですけれども、野党の三党の皆さんからも実際私ども同意をいただいて、法律を成立をさせていただきました。
 そういう中で、今は法律が成立した後でありますので、先ほど私が答弁したことは政府の答弁であります。

山下よしき いや、政府が考えていないということは先ほどからもう確認したんです。アメリカから要請があったときに断れますかという問いです。

菅官房長官 ですから、ここはあくまでも我が国日本としての考え方として、先ほど私が申し上げたとおりであります。

山下よしき いや、それはもう分かっているんです。その上で、アメリカから要請があった場合に断りますかと。

菅官房長官 ですから、政府として、その政策判断として、ISILに対する軍事作戦の後方支援等を行うことは全くないということです。

山下よしき そこははっきりしない答え方なんですね。
 欧米諸国は今、ISに対する空爆に、アメリカだけではないですよ、のめり込んでいますよ。パリのテロ事件の後、フランスのオランド大統領は、戦争状態だと、その認識が正しいかどうかはここでは議論しませんが、そう演説して、自ら空爆を強化しております。イギリスも、イラクに続いてシリアでの空爆を始めました。ドイツも、偵察機や艦船を派遣して、米国あるいはフランスへの軍事支援を担う方針を決めました。ドイツの支援は、第二次世界大戦後としては最大規模となる1200人を派兵する計画であります。アメリカも、空爆に加えて200人程度の特殊作戦部隊を派遣しようということになっております。
 国家並みの軍事力を備えた、そして住民への虐殺や弾圧を続けているISへの作戦ではありますけれども、これ、空爆が過剰に広がれば戦乱を混乱させるだけだという指摘もありますし、空爆は市民の巻き添えを必ず伴うということもまた事実であります。
 ただ、ここで、ISに対する空爆の是非について、あるいは評価について、私はあえて官房長官には聞きません。私が問いたいのは、欧米諸国が、ISに対する空爆、それへの軍事支援に今のめり込んでいる事実、そして、日本が安保法制によってISに対する空爆への軍事支援を法律的には可能とすることが成立したわけですね、その下で米国から支援の要請があったときに日本政府として断れますかという問いです。もう一度お答えください。

菅官房長官 これは先ほどの答弁と全く一緒でありますけれども、政府としては、政策判断として、この平和安全法制ができた今日に至っても、従来と同じようにISILに対する軍事作戦の後方支援を行うことは全く考えておりません。
 我が国としては、非軍事分野において国際社会における我が国の責任というものを毅然として果たしていきたい、こういうふうにも考えています。

山下よしき もう一度確認しますけれども、それは分かっているんです。アメリカから要請があったときに断ると、できませんと、そう言うんですね、言うんですかと聞いているんです。

菅官房長官 今、私の言っていることはそういうことじゃないでしょうか。

山下よしき そういうことじゃないでしょうかと聞かれても困るんですよ。断るのかと聞いているのに、断るとはっきり言えないところが私は一番問題だと思いますよ。私は、そこが重大だと思いますよ。
 憲法9条を持つ国が、アメリカから言われて他国領土に対する空爆への軍事支援なんて絶対やってはならぬですよ。
 もしそんなことをやったら、それが日本に何をもたらすか。ISは日本を敵と考えております。ISのウエブサイト英字機関誌ダビクがアメリカ国防総省の情報に基づいて日本など六十か国以上を対IS有志連合国のメンバーと定義しております。その中に日本も位置付けられております。ロシア、イラン、インド、アフリカ連合など名指しで敵だというふうに指摘した中に、それ自身を私は是認するわけではありませんが、そういうことに日本も名指しされているわけですね。
 それから、来年には伊勢志摩サミットもあります。在外邦人は今聞きましたら129万を超えております。海外旅行者も最近では1690人に上っていると。こういう方々の安全を守れるのかという問題もあります。
 私は、日本がISに対する空爆への軍事支援あるいは資金支援を行うなら、こうした外国要人や日本国民の命と安全が脅かされるリスクが高まると思います。ですから、米国から要請があっても断ると、空爆への支援は行わないと、米国から要請があっても断るとはっきり言うべきじゃありませんか。

菅官房長官 ここは前の国会でも説明をし、また法案が成立した今日においても、私が申し上げておりますように、政府としては、政策判断として、ISILに対する軍事作戦の後方支援を行うことは全く考えておりません。
 それと同時に、我が国としては非軍事分野において国際社会における責任を関係諸国と連携をしながら果たしていくと、この考え方に全く変わりはないということであります。

山下よしき 分かりました。アメリカから要請があっても断ると言えないということがよく分かりました。
 国家公安委員長に……(発言する者あり)いや、そういうことですよ、そう言うと言ったらいいのに言わないんだから。
 国家公安委員長、同じ質問です。外国要人、日本国民の命と安全に直接責任を負う国家公安委員長の認識、どうでしょうか。ISに対する空爆への軍事支援、これはやるべきじゃないと。

河野太郎国家公安委員長 政府としての答弁は、今の官房長官の答弁のとおりでございます。

山下よしき 次に行きたいと思います。
 共謀罪について伺います。
 河野国家公安委員長は、繰り返し国内テロ対策として共謀罪の新設の検討が必要であると述べておられます。
 そこで伺いますが、私は、近代刑法の原則は犯罪の被害が発生して初めて犯罪として処罰できるということだと考えております。つまり、国が犯罪者を罰することができるのは犯罪行為が実際にあった場合に限られるということであります。
 日本の刑法体系にこの原則がなぜ据えられたのかと。日本では、戦前、特高警察を中心にして治安維持法で思想そのものを取り締まる時代がありました。そのことへの反省から基本的人権を大原則とする憲法が生まれ、19条で「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」と定めた。その土台の上に先ほど言った刑法の原則ができたんだと思います。
 河野国家公安委員長に伺いますが、この近代刑法の大原則はそれほど重要な原則だという御認識、ありますか。

河野国家公安委員長 我が国が近代国家として発展してきたというのは、憲法が定める様々な基本的条件を尊重してきたからだというふうに認識をしております。

山下よしき じゃ、なぜ共謀罪を必要とするのか。共謀罪というのは、犯罪の実行がなくても、それを謀議する、相談するということがあればその相談そのものを犯罪として処罰するということでありまして、これは内心の自由、思想、良心の自由に踏み込んでいく憲法上大変問題のある、憲法違反の法律になると私は考えております。それを繰り返し河野さんは必要だということを、新設の検討が必要だということを述べておられますが、それはなぜですか。

河野国家公安委員長 今の世界状況に鑑みて、国際的なテロ対策は国際社会の連携が必要でございます。これは、テロリストに関する情報の入手といったことを考えても様々な国々との連携がなければなりません。
 その中で、国際社会と連携する中で国際組織犯罪防止条約というのは一つの大きなツールでございます。しかし、この国際組織犯罪防止条約を締結するためには共謀罪の新設又は参加罪の新設ということが要件になっているわけでございまして、そうしたことを考えて慎重に検討すべきだということを申し上げておりますが、現実に組織的犯罪処罰法の改正については、これは法務省の所管でございますので、どうするかということは、私は答える立場にはありません。

山下よしき 二点お話をされました。テロ対策として必要だ、特に条約上それが求められているということですが、私、警察庁からフランス・パリにおける同時多発テロ事件を受けたテロ対策というのを説明受けましたけれども、これによりますと、なかなか今できることをいろいろ努力されようとしていますよ。爆発物原料等対策、そういうものを収集していることがあればきちっとそれは取り締まるというふうに、いろいろ考えたり話し合ったりするだけではなくて、それを実行するために火薬や銃器を入手する、それを集積する、そういうことがあれば、きちっと取り締まることはできるわけですね。
 しかし、この共謀罪というのは、武器や火薬を集めるということをしなくても、話合いをすると、あるいはこの共謀罪の中身を見ますと、単にそういう重大な事項だけではなくて、六百にわたる犯罪行為を、実行しなくてもそれが話し合われるだけでそれそのものが犯罪になると、そういうことですよ。それはテロ対策とは関係ないと、きちっとやるべきことを今やることが大事であって。
 それからもう一つ、条約上のことを言われましたけれども、日弁連も、国連越境組織犯罪防止条約の批准にもこの共謀罪の導入は不可欠ではないと、もうはっきり述べておられます。理解が違うと。
 ですから、そのことを理由にして憲法上大変疑義のある、重大な問題があるこの共謀罪の導入を言うのは、これは筋が違うと。ましてや、テロ対策でそんな共謀罪よりもきちっとやるべきことをきちっとやることが大事なんだと。そういうことを、何といいますか、こじつけで理由にして共謀罪を持ち込むようなことになったら、日本社会に大変なこれは暗黒、暗雲をもたらすことになるでしょう。だって、相談するだけで犯罪だといったら、もう自由に物が言えない、話することもできない、そういう暗闇社会、暗黒社会になってしまうということになりますから、絶対にそういうことはやってはならないと思いますが、もう時間が参りましたから、これはまた引き続きやりたいと思いますが、そういうことが危惧されていると、国家公安委員長としてテロ対策というんだったら、もっと真っ当な対策に力を入れていただきたい、そういうことを申して、終わります。

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日本共産党参議院議員。香川県善通寺市出身。県立善通寺第一高校、鳥取大学農学部農業工学科卒業。市民生協職員、民主青年同盟北河内地区委員長・大阪府副委員長。95年大阪府選挙区から参議院議員初当選。13年参議院議員選挙で比例区に立候補3期目当選。14年1月より党書記局長。2016年4月より党副委員長に就任。2019年7月参議院議員4期目に。参議院環境委員会に所属。日本共産党副委員長・筆頭(2020年1月から)、党参議院議員団長。